第282話 終撃の一撃(3)
(正直言って、香乃宮とか辺りと戦わせてる雑兵共を召喚し続けるのもかなりキツい。それでこいつに叩き込む力のことを考えると・・・・・・ギリギリだな)
力の配分を考え、影人はそう結論づけた。冥の意識を一時的に破壊し、逃げるという行為が禁止されているこの円を解除出来るか出来ないかは、自分にかかっている。
(はっ、ったく俺のポジションはいっつも責任重大だな。――だが、やらなきゃならねえよなぁ!)
自分に活を入れ、影人は眼の強化を再び行った。爆槍で隙が出来た冥の動きが、スローモーション気味に映る。影人は右の拳を握りしめ姿勢を低くすると、次の一撃を強化する言葉を呟いた。
「天へと飛ばせ、我が拳よ!」
イヴによる力の拡張によって、影人は闇の力を扱う際の無詠唱を獲得している。ではなぜ影人はわざわざ言葉を呟いているのか。
その理由は威力の差というやつである。確かに今の影人は無詠唱でも次の一撃による強化が出来る。だが、言葉に出すことによって力の込め方を変える事が出来るのだ。
無詠唱で次の一撃を強化するのと、言葉に出すことによって一撃を強化するのでは、その一撃に込めることのできる闇の力の量は違ってくる。前者の無詠唱は、込める力の量が後者の詠唱有りよりも少ないというのがメリットだが、一撃の威力は詠唱有りよりも弱くなる。後者の詠唱有りは、込める力の量が多く燃費が悪いが無詠唱よりも威力は高い。
そして影人は燃費よりも威力を取った。その結果が詠唱有りに繋がっているというわけだ。
「ぐっ・・・・・・・やらせるかよッ!」
冥が再び右の拳に闇を集中させる。おそらくゲンコツのように低姿勢の影人に叩きつけるつもりだろう。
(悪いが・・・・・・ダメージを負って隙が出来てるお前の一撃は、止まって見えるぜ)
闇により強化された影人の眼には、咄嗟の冥の反撃はひどく遅く見えた。影人は冥の拳を紙一重で避けると、爆槍をぶち当て少し肉がえぐれた箇所に強烈なアッパーを繰り出した。
「がっ・・・・・・・・・!?」
常態的な身体能力の強化に詠唱によって威力を強化した昇拳、さらに傷口による攻撃により二重の苦しみを味わう冥。しかし、影人の目的はこの昇拳による攻撃ではない。その証拠に影人はこの拳に『破壊』の力を付与していない。
影人が拳を冥の体へと押し込み続ける。冥の硬化した肉体に影人の拳は軽く悲鳴を上げたが、そこは気合いだ。別に砕けていても後で回復すればいい。
「ぶっ飛べよ・・・・・・・!」
そうこの言葉の通り、影人の狙いは冥を空中へと飛ばすことにあった。
色々な強化により、なんとか影人は拳を振り切り抜いた。
その結果、冥の肉体は美しい夜空へと飛ばされた。




