第281話 終撃の一撃(2)
「い、痛ッ!? な、何するんですかシェルディア様!」
「落ち着きなさいキベリア、今あなたが出て行ったら面倒でしょ。それにあなたが出て行くってなったら『世界』も解除しなくちゃいけないじゃない。そうなったら私まで面倒に巻き込まれるわ」
ピッピッと、シェルディアはキベリアの手の甲にデコピンした。デコではないのに、デコピンとはこれいかに。と思われるだろうが、手のモーションはデコピンと同じなのでデコピンである。
「痛っ、痛っ! ちょ、やめてくださいよ! シェルディア様、そんな見た目して力はゴリラ並というかゴリラよりえげつないんですから!」
「だーれがゴリラ並かしら? そんな口の悪い子にはこうよ、えいえい」
キベリアの言葉にカチンときたシェルディアは、もう少し力を強めてデコピンをし続ける。「ちょっと本当に痛いですって!」とキベリアは軽く涙目になりながら、そう訴えた。
「別に殺花のことなら心配しなくても大丈夫よ。私だってあの子のことは気に入ってるんだから。もし、本当に殺花が浄化されそうになったら私が助けるわ。だって、あの子はあなたみたいに生意気じゃないし! えいえい!」
「ごめん、ごめんなさいってシェルディア様! もうゴリラとか言いませんから許してくださいよ~!」
現実世界が超シリアスな事態だというのに、先ほどまでの緊張感はどこへやら。断絶された『世界』の中、キベリアの悲鳴が響き渡った。
(!? なんだ? 今なぜか急にコメディの波動を感じとったが・・・・・・)
冥に一気に畳み掛けようとしていた影人は、意味不明な波動を心に感じ取った。
ぶっちぎりの超シリアスな現状だというのに、その中に生まれた一輪の笑いの気配を確かに影人は感じたのだ。
『おい影人! 意味不明なこと呟いてないでさっさと畳み掛けろ! 真性のアホかてめえは!』
(す、すまん・・・・・・・・・100パーセントお前の言うとおりだ。今はおふざけギャグモードじゃないしな)
イヴの怒号に影人は素直に謝罪した。そもそも普段の影人もそんなふざけたアンテナは張っていないのだが、今回は本当に急に察知したのだ。これも闇によって拡張した感覚のせいか。
(いや、それも100パーねえな・・・・・・・それよか、ここで決めないとな。本気で集中しなおせ俺。ここからのチャンスは1回だけだ)
少しふざけてしまった意識を真面目なものに影人は戻した。イヴが練り上げてくれた『破壊』の力は一撃分。もしミスでもすれば、はっきり言って終わりだ。イヴによって力の拡張を許された影人は、その力の総量も大幅に増加したが、陽華や明夜たちと戦わせている闇のモノたちの召喚、今までの戦いで消費した様々な闇の力によって、その総量はかなり少なくなっている。
つまりもし『破壊』の力を冥に叩き込むことに失敗すれば、闇の力が少なくなった影人は冥にやられて詰みということになる。




