第280話 終撃の一撃(1)
「――この戦い、もうすぐ終わりかしらね」
断絶された『世界』の中からずっと戦いを観察していたシェルディアは、半ば確信を持ったようにそう呟いた。
「かもですね。殺花もあの光導姫が光臨してから、かなり相性ヤバくなった感じですし・・・・・・・・スプリガンと冥の方に関しては、まあはい強すぎですねスプリガン」
同じく断絶された『世界』の中にいるキベリアも、シェルディアの言葉に同意するようにそう言った。
「冥の『逆境状態』はさっきよりも強化されてます・・・・・・そうだって言うのに、スプリガンはひたすら冷静に冥を捌きつつ攻撃してる。なんだか私と戦った時とは別人みたいです。私が戦った時のスプリガンはどこか攻撃的でしたが、私は今のスプリガンの方が恐いです」
「そうね。彼の強い点というか長所というのは、あなたが言った冷静さ、それと判断能力だわ。そしてその長所は、全てに変わりうるようなまでに万能な彼の闇の力を最大限に引き出している。・・・・・・もし彼の正体が人間だとしたら、ちょっと驚きね。よくもまああそこまで出来るものだわ」
シェルディアはこの戦いを通して分かった、スプリガンの強さを理解した。もちろん、あの謎の怪人も全ての手札を切ったというわけではないと思うが、それでもその強さは理解出来る。
(物質の創造は、闇の性質の1つである『創造』。他にも闇の属性変化はキベリアと同じ性質である『変換』。フェリートが使う『加速』。擬似的生命を召喚する『偽造』・・・・・・・フェリートの『万能』に似てるけど、やっぱり彼の闇の本質はそれとも違う。彼の本質はいったい何だと言うの?)
シェルディアは先ほどから抱いていた疑問について半ば無意識的に思考していた。本来、闇の性質は1人に1つだ。例えばキベリアなら『変換』、フェリートなら『万能』といったように。だが、スプリガンの本質は1つではない。その状況状況に応じ分けて、スプリガンは闇の性質を使い分けている。
そう、まるでレイゼロールのように。
(まさか、彼の力は――いや、考え過ぎね。さすがにそれはないわ)
シェルディアはある1つの可能性について考えを巡らせたが、さすがにそれは非現実的だ。そもそも、その場合には制約が邪魔をする。
「シェ、シェルディア様。殺花大丈夫ですかね? あの光臨した光導姫にかなり押されてますけど・・・・・・・」
「・・・・・・・大丈夫、と言いたいところだけどちょっとまずいかもしれないわね。あの光臨した光導姫、相当に強いから。もしかしたら、殺花もこのまま浄化されちゃうかもしれないわ」
キベリアの心配そうな声に、思考の海から帰還したシェルディアがそんな答えを返した。シェルディアはもちろん殺花と光導姫との戦いも見ていたので、殺花の状況は把握できている。
「ええ!? そ、そんな嫌ですよ、殺花が浄化されるなんて! 別にあの戦闘バカの冥は浄化されてもいいですけど、殺花は私の本当に数少ない友達なんです! うう、かくなる上は私が助けに入って・・・・・・・」
急に焦りだしたキベリアがそんなことを言うので、シェルディアは右手でキベリアの手の甲にちょっと強めにデコピンした。




