第278話 終幕への序曲(4)
「あ・・・・・・?」
冥はその攻撃に違和感を覚えた。なぜならそれはただの杭のような尖ったものによる突きだ。硬化の強度を上げた冥の肉体にダメージを与える事など出来るはずがなかった。
「・・・・・・・・拍子抜けって顔だな。安心しろ、これで終わりなわけねえだろ」
影人は不敵にそう言うと、柄の部分にあった2つのスイッチのようなものの1つをカチリと押した。
すると、杭のようなものが突如として突き出された。
「がっ・・・・・・・!?」
「パイルバンカー・・・・・・だっけな」
これには流石の冥もその表情を苦悶に染めた。だが、それでも打ち出された杭が冥の肉体を貫く事はなかった。
「なら、もう一丁だ」
影人はもう1つのボタンのようなものを押した。次に起こった出来事は至って単純。
打ち出された杭がただ爆発しただけだ。
「っ・・・・・・・・・・・!?」
「・・・・・・・・・・・流石にちょっとは効くだろう? 爆槍式パイルバンカーだ。硬い硬いあんたのための武器だ。気に入ってくれたか?」
どこまでも挑発の言葉を述べて、影人は薄い笑みを浮かべた。今日の影人は、スプリガン形態でも少しお喋りだ。その理由は、冥という闇人が挑発しやすい闇人だからという理由に起因していた。
「て・・・・・・め・・・・・え・・・・・・・・・!」
「・・・・・・・まだ意識があるか。これ創るのけっこう力使ったんだけどな」
爆槍をモロに受けても、冥はギロリとした目を影人へと向ける気力が残っていた。爆発した箇所に影人は目を向けたが、少し肉がえぐれた程度のダメージだけのようだ。火傷のようになっているため、血は流れていない。
『おい、影人。準備出来たぞ』
(ベストタイミングだイヴ。後、さっきの事も含めてありがとな)
『はっ、別に気にすんな。たまたまだからな。――しくったら承知しねえぞ』
(おうよ、ばっちり決めてやる。さあ、フィナーレと行くか)
イヴと短い念話をした影人は、いよいよ冥の意識を奪うべく一気に畳み掛けることを決意した。
「・・・・・・・・わざわざ今のお前に付き合ってやる義理もない。10分間、己は再び姿を消すだけだ」
光臨したアイティレに挑発された殺花は、そう言い捨てると再びその姿を消した。確かに今すぐに『提督』は殺したいが、今の『提督』と真正面から戦って勝てるとは殺花も思っていない。であれば、今は逃げることに徹する方がベターだ。
「ほう、確かにそうすれば私は手も足も出ない――とでも思ったか?」
「っ・・・・・・・・・!?」
姿を消してアイティレから距離を取っていた殺花は、アイティレのその言葉につい身構えた。
「今の私は、普段は出来ない力技も扱える。そうだな例えば――これでどうだ?」
アイティレは左手の銃を今度は地面へと向けた。そしてその引き金を引く。
「固まれよ、氷の地」
銃弾が地面へと着弾する。そしてその銃弾は地面に魔法陣を描き出した。




