第277話 終幕への序曲(3)
「ぐぅぅぅぅッ!?」
圧倒的な闇のエネルギーの奔流に、突き出した拳が戻されそうになる。しかし、この右手を戻せば冥の全身はこの奔流へと飲まれてしまう。いま冥がこの奔流に触れられているのは、黒拳も言ってしまえば巨大なエネルギー体であるからだ。要するに、「それだけの力を持つ拳による一撃」ということだ。
(くっそ・・・・・・やっぱ無茶だったか? ははっ、でもそうでなきゃ今以上に強くなんてなれねえよなぁ!)
こんな状況、だというのに冥は笑みを浮かべていた。そうだ、この一撃を真正面から突破できなければ、この世の誰よりも強くなんてはなれないだろう。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッらぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
雄叫びを上げながら、冥はただ愚直に右手を伸ばし続けた。自分の拳はこんな光に打ち勝てないほどヤワではない。全ての力を、全ての強者を砕くためにこの拳は鍛えてきたのだ。
「だから、応えろよ! 俺の拳! 俺の『闘争』ッ! まだまだ行けんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
渇望の叫びと共に、冥の纏う闇が増大した。そしてその闇の増大は冥の右拳に顕著に表れた。
徐々にだが冥の拳が黒い奔流を押し返し始めた。
そして遂には、冥の拳が影人の放った黒い光の奔流を殴り砕いた。
「はっはっあッ! どうだ見たかよ!? てめえの攻撃を真正面からぶっ壊してやったぜ!」
冥が喜びを隠しきれない感じでそう言った。これで、あの表情をあまり変えないスプリガンも多少は違った反応を見せるだろうと思っていた冥は、スプリガンがいた位置に視線を向けた。
だが、そこにスプリガンはいなかった。
「っ!? 野郎どこに――」
「・・・・・・・・あんたなら、そうすると思っていた」
「なっ・・・・・・・・!?」
低い声が自分の身近から聞こえ、冥はその視線を自分の下へと向けた。
すると、そこには先ほどの槍のようなものを携えたスプリガンが迫っていた。
(嘘だろッ!? 俺があの攻撃を受けると踏んで、俺があの攻撃を突破するのを見越して、低姿勢で突っ込んできたっていうのかよ・・・・・・・!?)
冥は内心スプリガンの戦術の巧さに、その観察眼に舌を巻いた。今スプリガンが携えている槍のようなものを創造して、冥にチャンスと捉えさせた時からこの状況は想定されていたのだろう。そうでなければ、スプリガンはこれほど速く冥に近づけてはいないし槍のようなものを創造してもいないはずだ。
(ヤベえな。全力の黒拳を放った後の硬直もあるし、もうスプリガンは突きのモーションに入ってる。この攻撃は確実にくらう。だったら、硬化にもっと力を割くしかねえか・・・・・・!)
確定で影人の攻撃をくらうことを予想した冥は、自身の闇による肉体の硬化の強度を上げる事に意識を注いだ。このレベルの敵がただの攻撃をしてくるはずがない。
「ふっ・・・・・・・!」
影人は冥の腹部に槍のようなものを突き出した。ガキィィン! とまるで金属同士が激しくぶつかったような音が響く。冥の硬化による結果だ。そして、槍のようなものによる突きは、冥の腹部を貫けなかった。




