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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
27/2051

第27話 考察(2)

「――つーわけでそいつには逃げられた」

「・・・・・そうですか」

 影人がスプリガンとしてフェリートと戦った翌日。影人は直接話を聞きたいとソレイユから念話を受けた。案の定、全身バキバキに筋肉痛でソレイユのいる神界に行くのは非常にというかかなりめんどくさかったが、神に呼ばれたのだからか弱い人間は命令に従うしかない。というわけで、影人は神界の暖かな光が満ちるソレイユのプライベート空間に足を運んでいた。

「まずは、本当にありがとうございます影人。あなたがいなければ、陽華と明夜は間違いなく殺されていたでしょう。ダメージを負った守護者のことは心配ですが、闇人・・・・・特にあなたが戦った執事風の闇人、フェリートと対峙しその程度で済んだのはむしろ僥倖です」

 ソレイユはその美しい面を思案の色に染めながら、相変わらずのぶっきらぼうな少年に感謝の言葉を述べる。

「・・・・・別に。お前もお前で大変だったみたいだしな。つーか、フェリートだったか? 知ってるのか?」

 影人は執事風の闇人としかソレイユに特徴を述べていない。だと言うのにソレイユは、その闇人の名前を知っていた。

「ええ。フェリートは最古参の闇人の1人でもあり、闇人の中でも最上位の実力を持つ者です。今の陽華と明夜、それにあの守護者の少年では絶対に勝てない相手です」

「そうか・・・・・まあ香乃宮もそう言ってたしな。で、そこで1つ疑問なんだが、何で俺はそんなヤバイ奴に勝てたんだ?」

「それは・・・・・わかりません。あなたの力とセンスが私が思っていたよりもすごかったから・・・・・じゃないでしょうか?」

「・・・・なるほど、俺は天才だったか」

 口ではそう言いながらも、影人はそんなことは露程にも思っていなかった。少し前まで本当にただの学生であった自分が、そんな歴戦の闇人相手に本来は勝てるはずがない。なにせ香乃宮光司でもまるで相手にならなかったのだから。おそらく、自分の、スプリガンの力には何かからくりがあるのだろう。

「ふふ、そうかもしれませんね」

 相変わらずその長すぎる前髪のせいで顔の半分は見えない影人だが、そんな影人が真顔でそう言ったのが、ソレイユはどこか可笑しかった。

「しかし、フェリートほどの闇人を退けたとなれば、あなたもレイゼロールには十分に警戒されるでしょう。いや、警戒だけで済むかどうか・・・・・」

「俺も敵に認定されて標的にされるかもってか? そんなのは想定内であいつらからしたら当たり前のことだろ。気にしちゃいねえよ」

 再び懸念事項を口にするソレイユに、影人は辟易とした表情で応じる。というかもうフェリートをボコったのだから今度から自分も、スプリガンも狙われるのは間違いない。

「全くあなたは・・・・・・自分事だというのに他人事ひとごとですね」

 ソレイユは呆れた表情であくびをしている少年を見つめる。この少年といると呆れた表情ばかりしている気がするソレイユである。

「それより俺も聞きたいんだけどよ、レイゼロールは囮だったんだよな? しっかし相手はラスボスだろ。被害とか、不謹慎かもだが死傷者とかは出なかったのか?」

 影人が昨日の顛末を話す前、都心に現れたレイゼロールは囮だったと聞かされただけで、詳しい話は聞けていなかった。ゆえに影人は、昨日のレイゼロール戦がどうなったのか知らないのである。

「はい、幸いなことに死者は出ていません。光導姫と守護者に何人かけが人は出ましたが、いずれも軽傷です。まあ、レイゼロールも時間稼ぎと囮に徹していましたからこのような被害だけで済んだのですが」

「そうか・・・・・毎度思ってるんだが、よく一般人に被害が出なかったな。今回レイゼロールが現れたのは都心だろ?」

 影人が何気なくもう一つ疑問を投げかける。影人たちが住んでいるこの付近は郊外だから人の数もまだ少ないが、都心は人で溢れているはずだ。だと言うのに、今回も一般人の被害はなかったようである。

「そこは日本政府の方々の迅速な対応のおかげですね。私がレイゼロールが出現したことを伝えると、すぐさまその辺りを封鎖してくれました。そこに光導姫の人避けの結界もあわさり、一般人の人々の被害も抑えられたのです」

「なるほどね・・・・・・」

 ソレイユの説明に影人は一応納得した。まあ、それはそれで疑問が1つ残るのだがソレイユはそれには答えないような気がしたので、影人はそう相づちを打った。

「・・・・・さて報告は終わったな。んじゃそろそろ帰るから地上に戻してくれよ」

「あ、ちょっと待ってください影人」

 影人がそろそろ帰ろうとほのかに暖かい光の床から立つと、ソレイユがパタパタと忙しそうに、奥の光の障子の向こうへ消えていった。今更だが、ここは大きな円形の広場のような場所で、今さっきまでソレイユが立っていた場所の後方にその障子があるのだ。ここは自分ソレイユのプライベート空間だと言っていたが、本当のプライベート空間はきっとあの奥なのだろう。

 と、影人がそんなことを考えていると、ソレイユが何かを持って戻ってきた。桜色の髪を揺らしながら何を持ってきたかと思えば、東京土産でおなじみの東京バナナだった。

「おい、何だそれ?」

「何って東京バナナですよ? 東京に住んでいるのに知らないんですか?」

「知ってるに決まってるだろ。俺が言いたいのは、何でそれを持ってきたのかってことだ」

 確か守護者の神ラルバから東京バナナを貰ったとかなんとか言ってたが、おそらくそれだろう。というか神が神に渡すお土産が東京バナナとはいかがなものか。(いや東京バナナはおいしいが)

「せっかくだからお茶でもしませんか? せっかくラルバから貰ったものですが、私1人では食べきれそうになくて・・・・・」

 ソレイユは少し困り顔で東京バナナを見た。以前ラルバがこれを渡してくれた時、一緒に食べないかと誘ったら「い、いや! 俺はいいよ、それはソレイユ用に買ってきたやつだから」と断られてしまったのだ。

「やだよ。お前とお茶なんて何か嫌じゃん」

 しかし影人はズバッと本音を口にした。正直、早く家に帰ってゴロゴロしたいし、そもそも影人はソレイユのことが苦手な部類に入る。

「なっ・・・・・・! ひ、ひどくないですか!? 私、神様ですよ!? ふ、不敬です! 不敬すぎます!」

 開いた口がふさがらないとはこのことだろう。いや、この性根がひん曲がっている少年のことだから、もしかしたら断られるかもしれないと思ったが、まさか本当に断られるとは。しかも理由が余計に腹立たしいし。

「うるせえ知るか。まず俺お前敬ってないし、不敬もクソもねえよ。ほれ、わかったらパッパと帰せ」

「・・・・・・嫌です!」

「は!?」

「絶対に嫌です! あなたは私と東京バナナを食べながらお茶するんです! これは神の決定事項ですっ! 終わったら帰してあげます!」

 ぷくっと頬を膨らませて、プイッと顔を横に背けたソレイユのその所作はまるで子供のようである。その姿を見た影人はなぜか無性にむかついた。

「このクソ女神ッ! てめえは子供か!?」

「違いますよ! でも絶対にお茶してくれないと帰してあげませんからね!」

 ソレイユの様子を見た影人は悟った。これ絶対に折れないやつだと。ならば、家に帰るのに最短の道は1つだ。

「・・・・・・・・わかったよ。付き合ってやる、ただしさっさと終わらせろよ」

 仕方なく影人は折れた。影人が折れたのを見たソレイユは、ふくれっ面から、途端に大輪の花のような笑顔を浮かべた。

「そうですか! そうですか! 影人はそんなに私とお茶がしたいですか! まあ、当然ですよね! 普通、女神とお茶なんか出来ませんし。もう、仕方ないですね!」

 どうやらこのアホ女神は耳やら脳やらが腐っているようだ。ソレイユの嬉しさではにかんでいるような顔を見た影人は、1発殴り飛ばしてやりたくなった。

「ではでは、お茶の準備をいたしましょう。ふふ、ここは神界ですからね。私にはこのような事も出来るのですよ」

 上機嫌になったソレイユはそう言うと、右手を1度横に振った。すると、中央に精緻な意匠のテーブルとイス、それにティーポットとティーカップが突如出現した。ソレイユは得意げな顔で不機嫌な影人を見た。

「どうですか、すごいでしょう。私は神ですからこのような事もできるのですよ! さ、ではお茶会を始めましょう!」

 ソレイユはそう言うと、影人の手を握ってテーブルまで向かった。手を引かれながら、ソレイユの顔をチラリと見ると、なんだか本当に嬉しそうである。

 ソレイユの温かい手に引かれながら、その顔を見た影人は1つため息をついた。

「仕方ねえな・・・・・・・」

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