第268話 光を臨む(5)
「二重の誘い――まずは1人」
「クソッ!」
アイティレが銃を構えるが、もう間に合う猶予はない。殺花は既にナイフを振り下ろしていた。
中遠距離タイプの明夜がとっさに殺花に反撃する事は絶望的だった。この戦いの最初の犠牲者は決まったかに思われた。
だが、奇跡は起きた。
闇色の騎士が、たまたま明夜と殺花の間に割って入って来たのだ。
「っ・・・・・・・・!?」
「え? 近くない!?」
明夜を殺すはずだったナイフは、スプリガンが召喚した騎士を無に還しただけだった。そして、ようやく殺花が自分の近くにいることに気がついた明夜は、つい叫び声を上げてしまった。
殺花が姿を現わしたことにより、周囲に存在していた闇のモノたちも殺花へと襲いかかる。殺花は群がってきた闇のモノたちに「ちっ・・・・・・・雑魚どもが!」と、苛立たしげに舌打ちすると、そのナイフを闇のモノたちに振るった。
「明夜! よかった、天運が味方してくれたか・・・・・・・・」
「ア、アイティレさん・・・・・・・すみません、私全然気がつきませんでした」
「いや、お前は悪くない明夜。不甲斐ないのは、奴の思惑に乗せられた私だ・・・・!」
明夜の元へと急行したアイティレは、怒りに震えたような声でそう言った。
そう、アイティレは怒っていた。誰でもない自分自身に。
(何が必ず生きて帰してみせるだ。偶然にも闇のモノが割って入っていなければ、明夜は死んでいた・・・・・・・)
自分は何と不甲斐ないのか。敵の思惑に乗せられたこの馬鹿者が、光導姫ランキング3位? とんだ皮肉であり、極めて滑稽な話だ。
「・・・・・・・・明夜、すまないが陽華と『騎士』と合流して風音の所へ向かってくれ。その際、伝言を頼む。『アレを使う』と風音に言ってくれないか?」
そしてアイティレはある決意を固めた。これ以上陽華と明夜を危険に晒さないために、短期決戦を行う決意を。
「アレ・・・・・ですか?」
「ああ、そう言えば風音には伝わるはずだ」
「・・・・・・・・・・分かりました」
アイティレの雰囲気が変わった事を察したのだろう。明夜は素直にそう頷くと、闇のモノたちを撃退しながら、陽華たちの元へと合流した。
「明夜!」
「月下さん!」
「陽華、香乃宮くん。またまた心配かけたわね。とりあえず、アイティレさんからの指示よ。私たちは風音さんと合流する。アイティレさんから風音さんへの伝言も預かってるから、急だけど早速風音さんのところへ行きましょう」
明夜は2人にそう言った。明夜の言葉を聞いた陽華と光司は、一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに「わかった」「了解したよ」と頷いた。
そして3人は風音の元へと合流するべく、移動を開始した。




