第267話 光を臨む(4)
「っ!? ここで来たか・・・・・・!」
殺花の突然の登場に驚きながらも、いつか仕掛けてくることを予想していたアイティレは、ある警戒を抱きながらも、光導姫の肉体のスペックをフルに活用して明夜の元へと急行した。
「やらせるかぁぁぁぁッ!」
しかし、いち早く殺花に対応したのは光司だった。確かに光司は明夜と近い距離にはいたが、それでも驚くべきカバーの速さだ。守護者ランキング10位の名は決して伊達ではない。
光司の剣が殺花を一刀両断する。だが、何も手応えは感じない。すると、斬られた殺花の姿が揺らめいて虚空へと消えていった。その殺花は幻影だった。
「また幻影!?」
1度幻影によってその身を危険にさらした光司は、思わずそう叫んだ。光司は殺花には幻影があるということを忘れてはいなかったが、今まで長く姿を消していた殺花が、このタイミングで幻影を使ってくるとは思わなかったのだ。
「やはりな・・・・・・ならば奴の本当の狙いは――」
その可能性を考えていたアイティレは、突如としてその純白の靴で急ブレーキを掛けた。そして、そのまま振り返り陽華へと右手の銃を向けた。
「え・・・・・・・?」
アイティレのその行動に、銃を向けられた本人の陽華は思わずそんな声を上げてた。明夜も、光司も意味が分からないといったような顔を浮かべている。
そして、アイティレは何の躊躇もなくその引き金を引いた。
乾いた銃弾の音が世界を揺らす。アイティレによって放たれた銃弾はそのまま陽華へと向かって行き――
陽華の後ろに出現していた殺花の額を貫いた。
「――注意を逸らしたつもりだったのだろうが、貴様の魂胆を予想できない私ではない」
明夜に幻影を飛ばし、その隙に陽華を暗殺する。殺花の殺しの計画を見抜いていたアイティレはクールにそう呟いた。
「うわッ!? いつの間に・・・・・・・!?」
「ッ!? 朝宮さん、大丈夫!?」
「陽華! はぁ、よかった・・・・・・・」
額を貫かれ無言のまま地面へと倒れた殺花に驚く陽華。光司も慌てたように陽華の元へと向かう。明夜は1人胸をなで下ろした。
「・・・・・・・・・おかしい」
だが、殺花を撃った当の本人であるアイティレはポツリとそんな言葉を漏らした。
(あまりにも呆気なさすぎる。最上位の闇人がたかだか頭を撃ち抜かれただけで倒れるか・・・・・・・? あの1発の弾丸だけで最上位の闇人を浄化できるはずがない。いや、それ以前になぜ奴は血を流して――)
そこまで考えたところで、アイティレは気がついた。倒れた殺花が徐々に消え始めている事に。その存在が虚空へと溶けていることに。
「なっ!? くっ、しまった・・・・・・・それすらも囮か!」
アイティレは自分が敵に踊らされていることに気がついた。倒れた殺花すらも幻影だったのだ。
「逃げろッ! 明夜!」
「はい・・・・・・・?」
アイティレが振り返りそう言った時にはもう遅かった。
なぜならば、本物の殺花は無音で明夜の背後に出現していたからだ。




