第265話 光を臨む(2)
「『騎士』はその事がよくわかっている。だから、あの2人の近くで戦っているのだろう。出来るだけ助けに入れるようにな」
「・・・・・・・ねえ、アイティレ。私もあの2人のフォローに入れるように移動した方がいいかしら?」
「確かにお前の対応力ならば任せられる。だが・・・・・・その役目は私が預かろう」
「え・・・・・・・・?」
異形の化け物と闇色の騎士を斬り倒した風音は、アイティレの思ってもいなかった言葉にそんな声を漏らした。
「意外か? 別に情とかといった問題からではないぞ。陽華と明夜の乱入、スプリガンの出現、さらにこの不可思議な円の制約によって、この場は何が起こってもおかしくない状態になっている。ならば全ての状況に対応できる力を持つお前は、私たちの切り札だ。その切り札をフリーではない状況にするのはよろしくはないからな」
「・・・・・・あなたのその冷静な俯瞰は、本当に頼りになるわ」
「『巫女』にそう言われて悪い気はしないな。では、私はあの2人の近くへと向かう。後は頼んだ」
「わかったわ『提督』・・・・・・あの2人のことお願いね」
「ああ、任せておけ」
風音の心配そうな声音にアイティレは力強く答えると、浄化の銃弾で道を切り開きながら陽華と明夜の元へと向かった。
「はぁッ!」
「イカしてる髑髏だけど・・・・・今は寄って来ないでちょうだい!」
陽華はおそらく4体目の闇のモノを殴り飛ばし、明夜も6体目の闇のモノを氷の魔法で浄化しながら、自分たちの身を守っていた。
「明夜! 大丈夫!?」
「大丈夫も大丈夫よ! こいつら1匹1匹はそんなに強くないから!」
陽華の呼びかけに明夜はそう答えた。明夜の言葉を聞いた陽華は、「わかった! とりあえずそっちに合流するね!」と返事を返し、明夜と自分との間にいる闇のモノたちを蹴散らした。
だが、陽華の行く手を阻むように異形の化け物が虚空から現れた。陽華はその化け物を撃退しようと拳を握るが、その化け物は浄化の弾丸を浴びて塵となっていった。
「え?」
「全く・・・・・・・・世話の焼ける後輩だ」
闇のモノを無へと帰したアイティレが陽華の前へと現れる。アイティレは陽華にその美しい赤い目を向けると、言葉を続けた。
「陽華、お前と明夜のフォローには私が加わる。『騎士』もそれとなくフォローはしてくれているが、まだ不安要素はあるのでな」
「ア、アイティレさん!? そんないいですよ! これくらいの敵なら私たちでも――」
「自惚れるな」
陽華が申し訳ないといったように手を振るが、アイティレはそんな陽華に厳しい声を投げかけた。
「!? そ、それってどういう・・・・・・」
「言葉通りの意味だ。――喋っていないで手を、足を動かせ。ここは依然戦場だ。でなければ死ぬぞ」
アイティレはそんな事を陽華に言っている間にも、2丁の拳銃による嵐のような銃撃を絶えさせてはいなかった。
「は、はいッ!」
陽華はアイティレのいっそのこと淡々とした言葉に反射的に頷くと、周囲に寄ってきていた闇のモノ達への攻撃を再開した。




