第263話 迫る殺しの影(5)
(ちっ、スプリガンめ。思ってた以上に厄介極まりない奴だ・・・・・・・)
影人との攻防の後に、姿を消していた殺花はそんなことを思っていた。
(己の殺気に気がつく敏感さ、容赦のない攻撃・・・・・・幻影化を余儀なくされた)
幻影化とは、殺花がスプリガンの銃撃をすり抜けたあの現象のことだ。自分の体を幻影と化す事で、全ての攻撃は殺花に当たることがないという、殺花の秘技の1つ。つまり一瞬、攻撃を受けない無敵状態になることが出来るのだが、この破格の技には1つ欠点が存在する。
それは、闇の力を大きく消費すること、殺花の体力を大幅に消費するということだ。つまり、幻影化は燃費がすこぶる悪い。殺花がしばらく何の行動も起こさなかったのは、体力の回復も兼ねていたからだ。
(しかし、どうするか。奴はいま冥と戦っているが、己が奴に近づけば奴は己に気がつくだろう。何せ奴は己の殺気を察知する。まだまだ若輩の己には、完全に殺気を消して対象を殺すことなどは不可能)
姿を消している殺花はただ思考した。スプリガンをどうすれば殺せるかを。だが、今の殺花にはそのスプリガンを殺せる方法が思いつかなかった。
(数的不利、強敵との戦闘も相まって今の冥は逆境状態・・・・・・ならば、暫くは奴1人でスプリガンの相手は務まる。・・・・・・・・・・・ここは一旦考えを変えるか。無論スプリガンは必ず殺すが、優先順位を変更する)
そこで殺花は殺しの優先順位を変えた。確かに殺花の主であるレイゼロールは、スプリガンの首を最も喜ぶであろうが、レイゼロールが喜ぶ首がこの戦場にはあと2つある。
(・・・・・・・ちょうど奴らはスプリガンが生み出したモノ共と交戦している。他の光導姫や守護者も同じ状況のため、注意は逸れている。なら、殺りやすいことこの上ないな)
この場には奇しくも、十闇召集の主的理由と副次的理由の2つの存在がいる。1つは、スプリガン。そしてもう1つは――
殺花の視線の先にいたのは、他の光導姫や守護者と同様に、スプリガンが召喚したモノたちと戦っている陽華と明夜だった。
(・・・・・・まずは貴様らからだ)
見えない殺しの影は、ゆっくりと2人へと近づいていった。




