第262話 迫る殺しの影(4)
「――彼、強いわね。レイゼロールも、フェリートにも勝ったというのも納得だわ」
「はい、知ってます。この身で体験済みですから・・・・・・・・でも、今の冥明らかに『逆境状態』ですよね? あの状態の冥と互角にやり合うなんて、やっぱりスプリガンって化け物ですよ・・・・・・・・」
断絶された『世界』で、スプリガンの力を観察していたシェルディアとキベリアはスプリガンのことについて話し合っていた。
「ふふ、確かにね。あの状態の冥はフェリートとも良い勝負をするものね」
シェルディアがキベリアの言葉を聞いて笑みを浮かべた。そんな思っていたよりも穏やかなシェルディアを見て、キベリアはその反応に意外感を示した。
「・・・・・シェルディア様、随分と穏やかですね。シェルディア様のことだから、スプリガンが現れた時にこの『世界』を解除して乱入するかと思いましたよ」
「あら、本当なら今すぐにでも乱入したいわよ? でも、いま乱入すると色々面倒でしょ? だから今はじっくりと観察することにしたの。・・・・・・・まあ、そのほかにもちょっとした理由はあるけど」
シェルディアは視線を冥とスプリガンの戦闘から、光導姫と守護者の方へと移した。現在、光導姫と守護者はスプリガンが召喚した闇のモノ達と戦っている。その中には当然、陽華と明夜の姿もある。
(別に面倒なのは本当の事よ。そして私は面倒な事が嫌い。だから私はまだ観察の姿勢に徹している・・・・・・・・そう、それだけよ)
陽華と明夜が現れた時に抱いた気持ちが、またシェルディアの胸に飛来した。心配と不安。自分には似つかわしくない感情が。
(・・・・・・変な感情。たかだか人間に対して)
別に、シェルディアはこのまま出て行って、あの2人に自分の正体がバレても構わない。2つの人間との縁が切れるだけだ。あの2人は確かに気に入っているがそれだけ。
そう、それだけのはずなのに。
「? そうですか、そう言えば殺花はどこにいるんでしょうね? ずっと消えたままじゃないですか。もしかしてダメージでも受けたでしょうか・・・・・・・?」
そんなシェルディアの心中など知らないキベリアは、先ほどからの疑問をシェルディアに投げかけた。キベリアのその言葉に、シェルディアはこう答える。
「それはないわ。最初の殴打以外はあの子『幻影化』してたから。その最初の一撃もそんなにキツいものではなかったし。たぶん、何かの機会を窺っているか、何かを考えてるか、そんなところじゃないかしら」
「うわー、だとしたらすっごい恐いですね。殺花が慎重に、慎重に殺しに来るなんて、私だったら恐くて吐きますよ。殺花、人間時代は暗殺者みたいだったから、そういうやり方プロでしょうし」
「そうね、でも暗殺が殺花のやり方でしょ? あの子の闇の性質も、そのやり方に合ったものだし。まあでも、そろそろ殺花も動き出すんじゃないかしら?」
姿を消している殺花について、シェルディアは勝手にそんなことを予想していた。




