第260話 迫る殺しの影(2)
「ちっ・・・・・・・・」
「けど・・・・・威力はそれほどでもねえな!」
冥本人にもそう言われて、影人は燃える双剣を手放した。即座に飛んできた冥の攻撃に対応するためだ。
(・・・・・・・何でかは知らんが、明らかにさっきより強くなってやがる。しかもご丁寧に強度も増してると見た)
冥との近接戦を演じながら、影人はどうすればこの闇人の意識を途切れさせる事が出来るのかを考える。
(イヴ、お前ならどうする?)
『ああ? 自分で考えろよ。だが、そうだな。俺なら「破壊」の力で、一時的にこいつの精神を破壊する。それでこいつの意識は10分くらいなら断絶できるはずだ』
影人は冥打倒の選択肢を増やすために、内心イヴにそう問いかける。するとイヴはそう答えた。
(なるほど、そいつはいいな。そういや、その『破壊』の力でこの円は破壊できないのか? 意識を一時的にでも破壊できるなら、出来そうなもんだが)
普通ならば、いくら力が強化されたからと言って、最上位闇人との近接戦の最中にこのように念話をすることは不可能だ。だが、その不可能な事が今の影人には出来ている。それは何故なのか。
「・・・・・・・・まさかとは思ってたが、あんた全部見えてるのか?」
「・・・・・さあ、何のことだかな」
冥と言葉を交わしている内にも、影人は冥の肘突きや左拳、回し蹴りなど全ての攻撃に対応していた。冥はどのような理由でかは知らないが、その肉体による攻撃の速度、威力などが明らかに上がっている。であるのに、影人はその全てに対応できている。そこには、むろん肉体の強化や『加速』などの要因も含まれているが、最も大きな要因は冥が指摘した眼であった。
(・・・・・・・・・・見えすぎるってのは中々に疲れるな)
影人は冥が近くに移動してきた時から、その眼を闇で強化していた。ゆえに、今の影人の瞳の奥には闇が揺らめいていた。
眼の強化により、影人は冥の動きが全て見えている。この眼の強化はレイゼロール戦の時にイヴが使っていたもの。影人はその力をこっそりと発動していた。
見えると言うことは反応できるということ。身体能力を上げている影人ならば尚更だ。だが闇によって強化された眼、それを通して反応している影人の意識には、現実と内面時間との少しのタイムラグが発生している。影人はそのタイムラグを利用してイヴと念話していた。
要するに、眼を闇によって強化している影人には冥の動きがスローモーション気味に見えている。しかし、現実世界はもちろん影人が見えているようなスローモーションなスピードではない。だが、影人にはそう見えているし、スローモーションに見えているという意識もある。そこに少しのタイムラグがあるのだ。
戦いにおいて、このタイムラグは凄まじいまでのアドバンテージになる。であれば最初から使えばいいのではないかという考えになるのだが、そこまで便利でもない。むろん、メリットもあればデメリットも存在する。
それが意識を極限まで集中させられるというデメリットだ。影人ももちろん人間なので集中すれば疲れがある。そして、その疲労は凡庸なミスに繋がる可能性がある。だから影人はここぞという時に、この眼の強化をすることにしたのだ。




