第259話 迫る殺しの影(1)
「言うじゃねえか! 煽ってくれるじゃねえか! 見せてくれよ、その違いってやつをよ!」
冥の纏う闇が、まるで燃えているかのように激しく揺らめく。冥はだらりと脱力したかと思うと、次の瞬間にはその姿を消していた。
「っ・・・・・・・・!」
そして、冥はいつの間にか影人の正面に再びその姿を現わすと、暴力的なまでの肉体による攻撃を繰り出してくる。
(速くなってやがるのか・・・・・・!?)
冥の掌底や蹴り、殴打に対応しながら影人は思考を巡らせた。
「シッ――!」
冥が短く息を吐く。その瞳に黒い紫電を迸らせながら、冥は闇を濃く纏わせた右の掌底を放ってくる。
「喰らうかよ・・・・・!」
冥が先ほどよりも速くなっているという事を理解した影人は、自分の肉体に闇による『加速』を施した。
冥の渾身の掌底を避けた影人は、その超速のスピードで冥の背後に移動した。
「っ!? 嘘だろ・・・・・・・・!?」
「残念だが、現実だ・・・・・!」
冥が後ろに気配を感じ、振り向いた時にはもう遅かった。影人は両手に闇で創造した2つの剣を持った。だが、その剣はただの剣ではなかった。
なぜなら、その2振りの剣には闇色の炎が燃え盛っていたのだ。
(観察していた感じと戦った感じ、この闇人はかなり硬い。並の攻撃じゃ、ダメージはほとんど見込めないだろう。なら――)
それを超過した攻撃を喰らわせ続ける。もしくは、大技で一気に叩く。それくらいしか、この闇人にダメージを与える方法はないだろう。
(大技は最終的には決めるつもりだが、多少の隙もあるからな。まずはこの攻撃が通るかで、大体の硬さの基準を見極める)
影人は『加速』した肉体で、燃える斬撃を冥に浴びせた。もちろん一撃ではない。双剣のメリットはその手数だ。少なくとも10回程は斬撃を通した。
「がっ・・・・・・!? てめえ、キベリアみたいに闇の属性変化まで出来やがるのか!」
「まあな・・・・・・・・」
少しだけ苦しそうにそう言ってきた冥に、影人はそう答えた。闇の属性変化は影人の記憶がない時に、イヴが使った力だ。では、なぜ影人は記憶にない力を扱えるのか。
(サンキューな、イヴ。お前が力の知識をくれたおかげで、戦いの幅が広がったぜ)
『どういたしましてだこの野郎。だが、肝心の威力はそれほどでもねえな』
答えはこのやり取りの通りだ。影人はイヴに自分の記憶がない時に、イヴが使った力についての知識を教えてくれるように頼んでいた。イヴは悪態をつきながらも、その知識を影人に教えてくれた。闇の属性変化はその知識の1つだった。
しかし、残念ながら冥にはそれほど効かなかったようだ。冥の道士服は所々焼け切れているが、肝心の冥の肉体はちょっとした火傷が出来ただけだった。何より、冥が普通に話している事が攻撃が効かなかった何よりの証拠だ。




