第258話 スプリガン、十全なるその力(5)
「なっ・・・・・・・これは!?」
「ちっ、擬似的な命の創造まで出来るのか・・・・・・・!」
「げっ、ヤバそうな奴らがうじゃうじゃ出てきやがった」
「っ!? スプリガン・・・・・・!」
「わわっ、な、何あれ!?」
「『僕たちと友達になろうよ!』ってな雰囲気じゃないわね。明らかに、『へい俺たちと地獄のツーリングに行かねえか!?』ってな感じだわ」
風音、アイティレ、刀時、光司、陽華、明夜たちは各々の反応を示し、戦闘への構えを取る。
スプリガンがあの異形のモノ達を呼び出した事は明白であった。そしてその異形のモノたちは明らかにこちらに敵意を抱いている。
それは明確なる光導姫や守護者たちへの敵対行動であった。
(さて、向こうはこれで大丈夫だろ。召喚した奴らの強さはそれほどじゃないから、『提督』や『巫女』といった実力者がいる中、あいつらも傷を負うことはないだろうし・・・・・・)
陽華や明夜たちから背を向けた影人は、そんなことを考えた。擬似的な命の創造はイヴによって拡張された闇の力の1つ。つまり影人が今まで出来なかった事の1つだ。実際に使ってみると、中々に便利である。
(さすがに闇人どもだけ攻撃するのは変に思われるだろうからな・・・・・・・・まあ、絶対に死ぬことはないから頑張ってくれよ)
正体不明、目的不明の怪人を演じるためのカモフラージュとして、影人はあの怪物たちを生み出した。参考にしたのは、レイゼロールやキベリアといった者たちの力だ。
(あの女の闇人はまだどこかへと消えたままだが、俺に怒りと恨みを抱いてるなら、ターゲットは俺のままのはずだ。なら奴が再び姿を現わしたときに、対処するだけでいい。それより今は・・・・・・・・・)
影人は視線をある方向へと向ける。それは冥が吹き飛んだ方向だ。
「・・・・・・・・・いつまでそうしてるつもりだ? 奇襲でもしようと思ったのか?」
影人は低い声でそう呟いた。影人が追撃用に放った鎖は何も動くことはなく、止まったままだ。すると、心底嬉しそうな笑い声が響いてきた。
「くくっ、ははははははははははっ! いや悪ぃ悪ぃ! 余りにも嬉しかったもんでよ! 俺の硬化をぶち抜いて痛みを与えてくれた奴は、本当に、本っっっっ当に久しぶりだったからよ! あんたは間違いなく強い! それが確認できて嬉しくてたまらねえんだ!!」
冥がバッとその体を起こした。見てみると鋲付きの鎖たちは冥の体を貫いてはいない。ただ冥に絡みついているだけだ。
「感謝するぜ、スプリガン! 俺の闇は逆境になればなるほどその力を高めていく。強敵っつう逆境を以て、俺はもっと強くなれる!」
その目を爛々と輝かせ冥が吠える。そしてその冥の言葉に呼応するかのように、冥が纏った闇もその密度を濃くしていった。
(こいつはまた・・・・・・・・面倒くさそうだな。だが、まあ俺もまだまだ試したい力はあるからな。実験と行くか)
最上位の闇人というのはある意味で贅沢だが、それくらいでちょうどいいだろう。影人はほんの少しだけ口角を上げて、内心スプリガンの力の化身にこう呼びかけた。
(さあ、暴れるかイヴ。お前の完全な力、あいつに見せてやろうぜ)
『けっ、都合の良いときだけそう言いやがって。――だが、まあ今回はお前の口車に乗ってやる。ああ、暴れてやろうぜ。真なる闇の力ってやつをあの闇人に叩き込んでやれ!」
影人にとって戦いは、まだ始まったばかりだ。
「ああ・・・・・・・来いよ、俺とお前の闇の深さの違いを教えてやる」
十全なる闇の力を得た怪人は、珍しく挑発するようにそう言った。




