第257話 スプリガン、十全なるその力(4)
「・・・・・・・・うっわー、なにあの化け物。相手は最上位闇人2体だぜ? それを軽々あしらうってさ、噂通りっつーか、噂以上に無茶苦茶な強さじゃねえか・・・・・・・・」
成り行き的にスプリガンと闇人たちの戦いを見守っていた光導姫・守護者たち。その中でも初めてスプリガンを見た刀時は、もはや引いたようにそんな感想を呟いていた。
「スプリガン・・・・・・今まで彼の力の一端は目にしていたけど、まさかこれ程の力だったなんて・・・・・」
「・・・・・・忌々しい。だが、あれが奴の実力。やはり奴と戦うならば・・・・・・・・」
風音とアイティレも、その鮮烈なるスプリガンの力にそれぞれの感想を漏らした。特にスプリガンを敵と見定め、母国から極秘の指令を受けているアイティレは、その赤い瞳を厳しくさせる。
(奴はまだ本気を出してはいない・・・・・・周囲には他の光導姫と守護者の目もある。だが、奴と遭遇できるのは数少ないチャンスだ。・・・・・・・・・・さてこの状況、私はどう動くべきだ?)
アイティレは冷静に二転三転した状況に対応すべく、1人静かに思考を巡らせた。
「・・・・・・・ねえ、明夜。またあの人に会えたね」
「・・・・・・・そうね、陽華。また彼に会えたわ」
そして黒衣の怪人に様々な思いを抱く2人の光導姫は、万感の思いを込めたようにそんな事を口に出した。陽華と明夜がスプリガンに出会ったのは、これで4度目。最後に2人がスプリガンに会ったのは、レイゼロールとの戦いの時だ。
2人はしばしここが戦場である事を忘れたように、スプリガンを見つめた。すると、スプリガンがこちらにその美しい金色の瞳を向けてきた。
「あっ・・・・・・・・」
「スプリガンがこっちを見てきたわね。いったい何かしら?」
明夜が不思議そうにそう呟く。一方、スプリガンの瞳を見た陽華はなぜかその頬を赤く染めてしまった。
(な、なんでだろ・・・・・・急にドキドキしてきちゃった。か、顔が熱い。というか、やっぱりスプリガンってカッコいい・・・・・って、何考えてるの私!?)
戦場に乙女という構図はまあ古くからのお約束のようなものだが、明らかに今はそんな雰囲気ではない。陽華もその事は分かってはいたのだが、止められないというのが気持ちというものだ。
「・・・・・・・・・・・」
1人沈黙を保ったままの光司は、こちらを見てくるスプリガンの姿を、その強さを見ていた。体に闇を纏いながら、無表情にこちらを見つめてくるその金色の瞳。その特徴的な目を光司は忘れたくても忘れられない。
(・・・・・・・お前のその瞳が、お前という存在が、僕は・・・・・・・いや、俺は・・・・・・)
光司が心の内でそんなことを呟いていると、スプリガンがその両手を外套のポケットへと隠した。そして興味をなくしたように、再びスプリガンは光導姫や守護者たちに背を向けた。
するとその直後、地の闇より、虚空の闇より、おどろおどろしいモノたちが世界へとその姿を現わした。それは例えば、剣を持った闇色の甲冑に身を包んだ騎士。槍を携えた骸骨兵。異形の姿をした怪物などといったようなモノたちだ。
大量に湧き出てきたそのモノたちはゆっくりとこちらへと向かってきた。




