第256話 スプリガン、十全なるその力(3)
『くくっ、良い感じじゃねえか影人。負の感情は闇の力のエネルギーだ。俺の力も活性化してきたぜ。ちょっとお前の体乗っ取ってみようか?』
(ちょっとだけみたいに言うな! まあまあ恐かったんだぞあれ!? ったく、油断も隙もねえ奴だな・・・・・・・・だが、確かにさっきより感覚も鋭敏になってるな)
イヴの力は、スプリガンの闇の力と同義だ。それが活性化するということは、闇が影響したもの全てが活性化するのと同じ。そして影人の感覚は先ほどよりも鋭敏になっていた。ということは、やはりこの感覚の拡張は闇による力のもので確定か。
「――そこだ」
影人は右手を拳に変えると、それを何もない自分の左側面の空間へと叩きつけた。本来ならば、空を切るはずのその拳は見えない何かへと直撃した。
「かはっ・・・・・・バ、バカな・・・・・・・!」
「・・・・・・・なぜバレたって顔だな。確かに、あんたの姿の消し方と気配の消し方は完璧だったが、殺意がちょっと漏れてたぜ。俺を暗殺したいならもっと感情を抑えるんだな」
殺花の左の脇腹に拳を直撃させた影人は、そのまま拳を振り抜かずにその右手で殺花の髪を掴んだ。また姿を消されては面倒だからだ。
「ぐっ・・・・・・・!」
そのまま影人はずっと左手に持っていた拳銃を、無防備な殺花のマントに押し当てる。いわゆるゼロ距離射撃の体勢だ。
「!?」
「・・・・・・・・俺からの礼だ。弾をくれてやるよ」
そして影人は引き金を引いた。影人が創造した拳銃は弾切れというものがないので、先ほどと同じように連射しまくる。さすがに最上位の闇人といえどもゼロ距離からの連射はだいぶ効くだろうと影人は思っていたのだが、そのとき奇妙な事が起こった。
「っ・・・・・・・?」
影人が撃った弾が全て殺花の体を通り抜けたのだ。それだけではない。影人が掴んでいた髪もまるで煙のように掴めなくなる。
だが、依然として殺花の姿は見えたまま。いったいこれはどういうことか。
(幻影を引いた? いや、それはない。観察してた限り、幻影は最初から実体がなかったはずだ)
影人は先ほどから戦いを観察していた。そのため殺花の能力もある程度は理解出来ていた。この女性型闇人の特徴的な能力は、姿を消すこと。そして幻影を使うことだ。
そうこうしている内に、殺花は煙のようにその場から流れた。そして影人から距離が離れると、再び陽炎のようにその姿を消した。
(・・・・・・・・・・やっぱり一筋縄じゃいかねえな)
理屈はまだよく分かっていないが、恐らくあの闇人にダメージが入ったのは、最初の打撃だけだろう。再び姿を消したということは、また影人をどこからか狙っているということだ。しかも、今度はご丁寧に殺気を完全に消している。
影人は内心軽くため息をつくと、今度は光導姫・守護者サイドの面々の方にその顔を向けた。




