第254話 スプリガン、十全なるその力(1)
「はははははっ! さあ、味わわせてみろよ! てめえの強さをッ!」
全身に闇を纏わせながら、冥は凄まじい速度で影人へと迫ってきた。闇を纏っているということは、ただでさえ高い身体能力を持つ闇人が、その能力を常態的に強化していることを表している。
「――闇纏体化」
向かってくる冥に視線を投げかけながら、影人は一言そう呟いた。
すると冥と同じように、影人の体に闇が纏われた。影人が今まで出来なかった常態的な闇による身体能力の強化だ。
今の影人は詠唱する必要はないが、そこはまあ気分の問題だ。
冥が左拳を繰り出してくる。影人は右手でその拳を受けとめた。
「はっ、随分と軽く受け止めてくれるじゃねえか!」
「・・・・・・・・・・うるさい奴だ」
「そう言うなよ! 興奮してんだ許せよそれくらい!」
左手を封じられているのにも関わらず、冥は右拳も影人めがけて振るってくる。もちろん、右の拳も恐ろしい威力であることは明白なので、影人はその攻撃にも対処しなければならない。
だが、
『おい影人』
(ああ)
イヴが影人に警告の声を掛けてきた。影人はその声に心中でそう返すと、左手を自分の後ろへと向けた。
「あぁ?」
冥が疑問の声を上げながらも、攻撃を続けてくる。冥はまだ気づいていないようだが、影人は自分に殺意が近づいてくるのが分かっていた。
(まじで闇の力で感覚が拡張されてるのかもな・・・・・)
あるいは、今までの戦いで身についた勘的なものか。影人は余裕があるように、そんなことを思っていた。
「・・・・・・・・!」
「・・・・・・・分かってるんだよ」
影人は殺意が自分の後ろに極限まで近づいた瞬間に、後ろに向けていた左手に闇色の銃を創造した。そしてノールックでその引き金を引く。
「っ・・・・・・・!?」
スプリガンの出現によって戦場の注意に空白が生まれた一瞬の隙に、死角からスプリガンを暗殺しようと姿を消していた殺花は、その目を見開いた。冥の攻撃の最中、戦闘の初動という完璧なタイミングを見計らったのにも関わらず、スプリガンは気がつくどころか、殺花に反撃してきたからだ。
むろん、殺花に対応している間にも影人は冥の攻撃にも対処しなければならない。影人は銃を創造したのと同時に、虚空から闇色の鎖と腕のようなものを呼び出していた。それらは冥の右手を殺到し、その拳を影人に届く前に止めた。
「ははっ! この物量と強度のモノを無詠唱で創造かよ!?」
「・・・・・・・・お前、いちいち喋らなきゃ戦えないのか?」
影人は呆れたようにそう呟きながらも、後ろに向けていた左手の銃を連射していた。別に当てようと思って撃っているわけではない。あくまでこの銃撃は牽制だ。
(とりあえず、一旦こいつらをぶっ飛ばすか)
影人は右足に闇を集中させた。そこにフェリートが使っていた闇による『加速』の力を付与させる。まずはこの戦闘狂っぽい男の闇人からだ。




