第253話 役者、揃う(6)
「これは・・・・・・・」
『大変です影人! 転移が、転移が出来ません!』
「!?」
影人が足下に広がる図のようなものに目を落とした時、焦ったようなソレイユの声が脳内へと響く。ソレイユの信じられないような言葉に、さすがの影人もその表情を驚きに変えた。
「ははははっ! これでもう逃げられないぜ! 真場はいわば一種のルールだ! 俺が解除しない限りか、俺の意識が途切れない限り、この円の中にいる奴は逃げるという行為が禁止される! スプリガン、お前は転移を使ったってレイゼロールから聞いたが、転移を使ってもここから逃げることは出来ねえぜ!」
(ッ・・・・・・・そういうことか! 野郎、最悪なタイミングで発動させやがった!)
影人は冥の言葉から、ソレイユが2人を転移させることが出来なかった理由を悟った。あと数秒で、陽華と明夜を逃がせたというのに、影人とソレイユの思惑は今この瞬間全て泡へと帰した。
それはつまり、まだ未熟な陽華と明夜がこの戦いに強制的に参加させられるということを意味していた。
「てめえがもし現れたら、展開しようと思ってたが、まさか本当に現れるとはなぁ。最高だ、もう逃がさねえ!」
(・・・・・・・・はっ、つまり俺のせいってわけか)
冥が続けた言葉を聞いた影人は、自虐的な笑みを浮かべてしまった。要するに、自分が現れなければ、2人の転移は終わっていたかもしれないのだ。
2人を転移させるために影人が出てきたというのに、影人が現れた事によって転移が出来なくなった。なんたる皮肉だろうか。
(ソレイユ、この状況だ。俺か誰かの視覚と聴覚を通して状況は理解できてるな? 悪いが緊急事態だ。このまま戦いに突入する)
『っ・・・・・・・はい。あなたの言う通り状況は理解できています。逃げることができない、ということは戦うしかないでしょう。2人を転移させる為には・・・・・・』
(ああ、奴をボコりまくって気絶させるしかねえ)
先ほどの冥の言葉からするに、この円を解除するには冥の意識を途切れさせる、つまり気絶させるしかない。ゆえに影人が取る方法は1つだ。
(はっ、ちょうど良い。俺の新しい力のお披露目といくか)
少しだけヤケクソ気味に影人はそう心中で呟いた。そんな影人を心配するかのように、ソレイユが自分の名を呼ぶ。
『影人・・・・・・・・』
(大丈夫だ、心配するな。朝宮と月下も、香乃宮も他の奴らも誰1人死なせねえよ。自惚れでも高望みでも願望でもない。今の俺にはそれだけの力がある)
ソレイユの声に影人は、決してヤケクソではないことを示すために最後にそう念話した。さあ、自分がやるべき仕事をしよう。
誰も逃げることの出来なくなった戦場に、生ぬるい一陣の風が吹いた。




