第252話 役者、揃う(5)
そんな、実はギリギリの状況であったということを、スプリガンである影人は知る由もなくその瞳を闇人たちへと向けた。
「・・・・・・・・互いの陣営の実力者どもがよく揃ってやがるな。まあ、中には場違いな奴らもいるみたいだが」
影人がスプリガンとして放った最初の一言はそれだった。今まで戦いを観察していた事を出来るだけ悟らせないために、そしてどうとでも取れる言葉を影人は選択した。ちなみに場違いな奴というのは陽華と明夜のことだ。
(香乃宮の奴は・・・・・・・まだ呆けたような顔してやがるな。てっきり敵対的な視線を向けてくると思ってたが、まだ混乱してるのか?)
影人がまだ自分に対して反応を見せていない光司をチラリと見る。光司はスプリガンに敵意を抱いているので、『提督』のように厳しい視線を向けてくると思ったのだが、光司はただ驚いたように自分を見てくるだけだった。
「ははははははっ! 今日は良い日だなぁ!? てめえがスプリガンだろ!? レイゼロールから話は聞いてる! 会いたかったぜぇぇぇぇ!!」
「そうか・・・・・・・俺は別にあんたとは会いたくなかったがな」
冥が本当に嬉しそうに影人へとそう言ってきた。いや、言ってきたというよりも半ば叫んでいた。
「そう言うなよ! 俺はお前に興味があるんだ! 未知の強者を俺は求めてたからなぁ!」
「ふん・・・・・・・面倒な奴だ」
案の定、戦場の全ての注意は自分へと向けられた。そして影人が冥にそう言葉を返したとき、ソレイユの声が脳内に響いた。
『影人、ありがとうございます! 転移の準備はあと10秒ほどで整います』
(了解だ。これで大丈夫だな・・・・・・・)
影人はソレイユの念話を聞いて、内心ホッとした。イレギュラーはあったが、これで当初の予定通り、陽華と明夜が戦いに参加することはない。
あと10秒。さすがにこの時間の間に何か起こることはない。用心深い影人もこのときばかりはそう思った。
だが、その考えは皮肉にもスプリガンの登場で狂うことになってしまったのを数秒後の影人は知ることになる。
「このチャンスは逃さねえぜ! おらッ、俺の闇よ! 俺の『闘争』よ! 高まりやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「っ、何だ・・・・・・!?」
冥の右足に闇が集中する。影人は激しく嫌な予感を覚えるが、時は既に遅かった。
「今からここは真なる闘争の場だッ! 展開しやがれ、『真場』!」
冥が闇を纏った右足を地面へと叩きつけた。その結果、冥が叩きつけた右足を基点として幾何学的な文様が描かれた図のようなものが広がっていった。
それらはこの戦場全体へと広がり、綺麗な円を展開した。




