第245話 激化する戦い、観察者たち(3)
『ああ? 分かるかよそんな事。俺にはそんな違和感はねえからな。可能性の1つとして、お前の拡張された闇の力がお前の感覚や第六感を鋭敏にしたってのが考えられるが・・・・・・・いずれにしろ、それは肉体を持ったお前に帰結してる。つまり俺の意志から離れた力だ。だから俺には何も分からねえよ』
「そういうもんか・・・・・・分かった、ありがとうなイヴ」
『けっ、てめえに礼を言われるのは嫌な気分になるね』
イヴはそう言葉を返すと、それ以上は何も言ってこなかった。天邪鬼なイヴの言葉に影人は苦笑すると、今のイヴの言葉を思い出しながら、変わらず視線は戦場に向け続けた。
(闇の力によって俺の感覚が鋭敏化されたかもか・・・・・・・だがもし俺の感覚が正しいとして、俺以外にこの戦場を見ている奴がいるなら、いったい誰が――)
影人がその可能性について考えていると、新たに戦場に1人の守護者が参戦してきた。
「遅くなりました! 守護者『騎士』参戦します!」
その守護者、香乃宮光司はそう宣言し状況を確認すると、1人で闇人の相手をしている『提督』の元へと合流した。
「――あら? 新しい守護者? ふふっ、ソレイユ達はよっぽど最上位闇人2人という事態を警戒しているみたいね」
「そうみたいですね。ちなみに、あの守護者ついこないだ戦いましたよ。たぶん実力は上位クラスです」
影人の疑念の通り、この戦いを観察していたのは影人だけではなかった。独自の力により、その姿と音を現実世界から遮断した小さな『世界』を構築した少女の姿をしたものと、その使用人もこの戦いを観察していたのだ。
「へえ、そう。冥はきっとまた喜ぶでしょうね。あの子は逆境になればなるほど燃えるから」
「ですね・・・・・逆に殺花は敵が増えて苛ついてそうですけど」
シェルディアの言葉にキベリアは苦笑した。ちなみに今のキベリアは、深緑髪のグラマラスな体型のまま。つまり力を解放していない。
「シェルディア様の無茶苦茶ぶりには昔から慣れてますけど、やっぱりこの『世界』の展開を見ると驚かされます。これって『魔法』の究極みたいなものですから」
「そう? 一応これも『世界』の展開ではあるけど、本来の規模とかから考えたら簡単なものよ? そんなに労力もかからないし」
「あ、はい。そうですか・・・・・・・・」
キョトンとしているシェルディアを見て、キベリアは全てを諦めたようにそう呟いた。分かってはいたが、レベルが、次元が違うとキベリアは改めて思った。
現在キベリアとシェルディアがいるのは、シェルディアが構築した小さな『世界』だ。『世界』とは、周囲の空間を自らの望むままに、あるいはその者の本質で周囲を覆う、馬鹿げた業の事である。そんな『世界』の展開ができる人物を、キベリアはシェルディア以外には知らない。あのレイゼロールすら『世界』の展開は出来ないのだ。
シェルディアの言葉からも分かる通り、本来の『世界』はもっと大規模に展開される。だが、今回シェルディアが展開している『世界』は半径5メートル程の小さなものだった。




