第244話 激化する戦い、観察者たち(2)
「剱原さん! 私たちの事は、もう守らなくて大丈夫です! だから思う存分攻めてください!」
「? 守る?」
風音の言葉は冥には意味不明だった。だが、当の言葉を受けた刀時には理解できる言葉であった。
「・・・・・・・・本当何から何までごめんね風音ちゃん。後でアイティレちゃんにも謝っとかなきゃな。でも今は――」
剱原刀時の守護者としてのスタイルは、普通の守護者のスタイルとは少し違う。普通の守護者が光導姫を守りながら援護するのに対し、刀時は闇奴や闇人といった敵に極限まで攻める。その果てに、敵を動けないまでに弱らせるのだ。
だが、今日の刀時は最上位闇人2体という異常な状況のために今まで「守り」の姿勢を取ってきた。しかし、守りの姿勢はやはり刀時には合わなかったようだ。その証拠が先ほどまでの体たらくだ。
「ありがとうねぇ! お礼にこの闇人は必ずぶった斬るよ!」
「ははっ! いいなあんた! やれるもんならやってみろよ!」
刀時はどこか楽しげに笑みを浮かべながら、冥へと斬りかかった。刀時の斬撃を冥はこちらも笑みを浮かべ、硬質化した右腕で受け止めた。
「私は援護と遊撃気味に立ち回ります! 行きましょう剱原さん!」
アイティレは風音と刀時に冥を任せると言った。そうなるとアイティレはただ1人で、あの女性の闇人と戦うことになる。だが、風音はアイティレの心配はしていなかった。いや、心配すればアイティレに失礼だと風音は思っていた。
なぜなら、アイティレ・フィルガラルガは光導姫ランキング第3位『提督』。戦闘能力は光導姫最強とまで言われる人物だからだ。そんな『提督』が「こちらは任せろ」と言ったのだ。ならば風音が心配するのは逆に失礼だろう。
「おうともさっ! 派手に行こうぜ風音ちゃん!」
「ははははっ! いいねいいね! 燃えてきたッ! 2人まとめてかかってきやがれ!」
冥の興奮したような声を不快そうに聞いた殺花が、ジロリとアイティレに視線を向けた。
「・・・・・・・・・ではこちらも始めるか。言っておくが、己と貴様の相性は最悪だぞ『提督』」
「ほざけ。例えそれが真実であっても最後に滅ぶのはお前だ」
冥vs刀時・風音。殺花vsアイティレ。互いの力を解放した第2ラウンドが幕を開けた。
「・・・・・・・・・・・この後に香乃宮も参加することも考えると、まだ俺が出る必要はなさそうだな」
そんな第2ラウンドの始まりを影から見ている者がいた。転移してきた影人である。
影人が戦いを観察している場所は暗い林の中だ。その林に生えている木の裏から戦いを観察していた。ちなみに、拡張した闇の力を使って影人は自分の気配を完全に消している。ゆえに戦いに集中している闇人や光導姫・守護者が影人に気がつくという事はないだろう。
影人はつい2分ほど前から戦いを観察しているが、広大な空地のような場所で行われている戦いのレベルの高さはそれだけでもよくわかる。いずれも両陣営の最高位なのだから当然と言えば当然だが。
(・・・・・・だが何だこの違和感は? この戦場を観察してるのは俺だけのはずだ。だっていうのに、何か、いや誰かいる・・・・・・・・・?)
確信とまでは言えないが、影人は何かを、言葉には表しきれない何かを感じていた。それはこの場所から戦場を観察し始めた時から感じ始めた事だ。
「イヴ、何かわかるか?」
影人は小声で己の中に存在する力の化身にそう問いかけた。影人の突然の問いかけにイヴはこう答えた。




