第243話 激化する戦い、観察者たち(1)
「いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
冥が嬉々として地を蹴った。解き放たれた獣のように冥は3人へと肉迫する。先ほどまでの冥とはまるで比較にならないほどのスピードだ。
「速っ!? ああっ、クソッ! だるいな!」
闇を纏った拳を突き出してくる冥に一早く対応したのは刀時だった。刀時はアイティレと風音の前に庇うように立つと、奇妙な型で刀を構えた。
冥の拳に合わせるように刀時は右手に持った刀を逆手に持ち、それを前方へと突き出した。そして左腕を刀の棟に押し当てる。
「あ? ああ、なるほどなぁ!」
冥は刀時の思惑を何とは無しに理解した。そして理解した上で、冥はその拳を構えられている刀へとぶち当てた。
「は!? 嘘だろ・・・・・・・!?」
刀時は冥の拳が刀の刃に当たった瞬間に、力を受け流して反撃しようとしたのだが、その考えは実現しなかった。
なぜなら、冥の拳はまるで鍛えられた鋼のように硬く、それでいて凄まじいまでの威力であったからだ。
刀時はその強すぎる力を受け流す事が出来なかった。そのため刀時は大きく体勢を崩す。
「ヤバっ・・・・・・・・」
「そうらッ!」
冥はその隙を見逃さず左脚で蹴りを繰り出した。体勢を崩した刀時はその蹴りを避ける事は出来ない。
「第1式札から第5式札! 寄りて光の女神に捧ぐ奉納刀と化す!」
だが刀時の危機をまたしても救ったのは風音だった。風音は式札を寄り集めさせると、式札を鍔のない日本刀へと変えた。そして刀時の前に出ると、冥の蹴りを日本刀で受け止めた。
ガキィィンとまるで金属同士がぶつかり合うような音が響いた。先ほどの刀時の時と同じように、冥は刃物に触れたというのに傷1つ負っていない。その謎を風音は知っていた。
「気をつけて剱原さん! 冥は肉体を闇で硬質化してる! その硬さは尋常じゃない!」
「おうよその通りだ! 俺の肉体の硬さは十闇の中でも1番だぜ! さあ、どうするよ巫女ォ!?」
冥は風音の言葉を肯定すると試すようにそう叫んだ。そんな冥の言葉に風音は少し苛ついたように言葉を返した。
「どうもこうもッ・・・・・・! あなたと話す事はないわ冥! 剱原さん! アイティレ!」
「――悪い風音ちゃん。もうふざけねえ、本気で行く」
「――ああ、任せてもらおう」
風音の後ろから飛び出した刀時が、神速の居合を以て冥に一閃を浴びせた。アイティレも2丁の拳銃を冥に向けて斉射しようとしたが、その斜線上に立ち塞がるように殺花が突如として出現した。
「・・・・・・・・貴様の相手は己が務める。主のためにもその命を頂く。安心しろ、貴様は死ぬ事にも気づかない」
「ほう、言ってくれるな。私の命の価値、お前ごとに計れるか? 悪しき者よ」
白と黒。対照的な格好の2人は静かな敵意をぶつけ合い対峙した。
「アイティレ!」
「巫女、侍。そっちは任せる。その代わり、こっちは任せろ。私はこの闇人の相手をせねばならないようなのでな」
風音の声にアイティレは双銃を構えながらそう答えた。アイティレの言葉を聞いた風音は「わかった! お願い!」と了解の言葉を返すと自分たちの敵へと視線を向け直す。
「へえ、中々いい斬撃してんじゃねえかあんた」
「・・・・・また無傷かよ。一応今の鉄くらいなら簡単に斬れるんだけどな」
風音の視線の先にいる冥がニヤついた顔で、自分を切り抜けた刀時を見た。冥の言葉を受けた刀時は、いっそ呆れた表情を浮かべた。




