第241話 表の戦い(4)
「そのレベル同士の戦場なら・・・・・・・・きっと私たちが応援に向かっても逆に迷惑よね?」
「・・・・・・・・・すまない月下さん、君の言う通りだ。そもそも最上位クラスの闇人の相手は、各ランキングの10位までと決まっているんだ。その理由は、そのレベル以下の光導姫や守護者が戦えば・・・・・・・・・高確率で死んでしまうからだ」
「「っ!?」」
光司のその言葉に現実を突きつけられた2人は、その表情を強張らせた。「死」という言葉を聞いた陽華と明夜は、少し鼓動が速くなったような気がした。それは恐怖から来るものであった。
「そういうわけなんだ。・・・・・2人の気持ちは嬉しいし、2人が強くなって来ているのも僕は知ってる。でも、今はまだ君たちが来れる戦場じゃない」
光司はそこで一旦言葉を区切ると、2人に背を向けて最後にこう言い残した。
「・・・・・・・・・・自惚れに聞こえるかもしれないけど、今から僕が向かう戦場は、僕で最低レベルだ。だから、ごめん。もう行かなくちゃ」
守護者ランキング10位『騎士』は次の瞬間、疾風のように駆け出した。
「・・・・・・・・香乃宮くん行っちゃったね。大丈夫かな?」
「断言は出来ないわ。何せあのフェリートクラスの闇人が2体よ? 絶対大丈夫という事はないわ」
心配そうにそう呟いた陽華に、明夜が現実的な事実を口にする。明夜の脳裏に思い出されるのは、圧倒的な戦闘力を以て自分たちを圧倒したフェリートの姿だ。明夜はもう少しで命を落としていた。
「っ・・・・・・・だよね」
明夜の言葉を聞いた陽華はその顔を曇らせた。おそらく光司が心配で仕方ないのだろう。その気持ちは明夜にも痛いほどよくわかる。
「でもきっと大丈夫って、私たちはそう信じるしかないわ。私たちが行っても足手まといにしかならない。それも事実よ」
「分かってる、分かってるけど・・・・・・」
陽華のどうしても拭きれない葛藤の声が虚空に虚しく響いた。
「――おらァ!」
「うわ、怖っ!」
冥の闇を纏った拳が放たれる。喰らってしまえば、冗談抜きに死んでしまうであろう一撃を、刀時は何とか紙一重で避けた。
「第1式札から第5式札、光の矢と化す」
刀時の援護をするように、風音が5条の光を放つ。その5つの光は黒い道士服を纏った闇人に向かう。
「はっ、しゃらくせえ」
冥は自分に向かって来た5つの浄化の光を全てその体捌きを以て回避した。
「そこだ・・・・・・!」
アイティレの2丁の拳銃のマズルフラッシュが闇夜に光を瞬かせる。浄化の力を宿した銃弾を、アイティレはもう1人の最上位闇人へと撃ち込んだ。
「・・・・・・・・・・無駄だ」
提督が放った浄化の弾丸に、殺花は興味がなさそうにそう呟いただけだった。
次の瞬間には殺花はユラリとまるで陽炎のように、アイティレの視界からその姿を消した。
「巫女! 侍! 奴がまた消えたぞ!」
「分かったわ!」
「げっ、またかよ!」
アイティレの呼びかけに2人は全方位に意識を集中した。戦いが始まってから、女性の闇人が忽然と姿を消したのはこれで3度目だった。
一瞬のひりつく静寂の内、殺しの影は刀時の背後に音もなく出現した。




