第240話 表の戦い(3)
『・・・・・・これでお前の枷はなくなった。後は好きにするんだな』
「サンキュー。素直なお前は可愛いぜ、イヴ」
『・・・・・・キモいんだよ死ね』
影人のその言葉にイヴは心の底から不快そうな声を響かせると、もう何も言ってくる事はなかった。どうやら本気で影人がキモかったらしい。
「・・・・・・・・・・・・ミスったな」
『影人、イヴさんと何か話していたようですが、いったい何を・・・・・・?』
影人が少し凹んでいると、ソレイユが再び念話をしてきた。どうやら影人の言葉からイヴと話していた事を察して、少し黙っていたようだ。
「ちょっとな。お前、俺と視界共有してんだろ? なら見ときゃわかるよ」
影人は北西2キロ先を視界に収め、右手を前方に突き出した。すると影人の正面に闇色の渦のようなものが出現した。
「おお、すげえ。マジで出やがった」
『この渦は・・・・・・・・・・!』
ソレイユはその闇の渦を1度見たことがあった。それはレイゼロール戦の時、イヴに体を乗っ取られていた影人が使ったある力だ。ソレイユはその光景を光導姫アカツキの視界を通して見ていた。
『影人、あなたはまさか自力で転移するつもりですか!?』
「ああ。視界内っていう条件はあるが、今の俺にはそれが出来る」
イヴとの契約により影人が使えるようになった闇の力は数多い。転移の力はそんな力の中の1つだった。
「ソレイユ、つーわけで俺は次の戦場の近くに移動する。俺がやる事は、光導姫・守護者に危険が迫れば戦闘に介入する。それでそれとなくそいつらを助ける。それで問題はないな?」
『はい、その認識で大丈夫です。どうかお願いします』
ソレイユに確認を取った影人は「あいよ」と了解の言葉を呟くと、最後にその瞳を下に向けた。
地上では、陽華、明夜、光司の3人が闇奴化していた人間を介抱し終えたところであった。そして光司だけは自分と同じで次の戦場に向かうはずだ。
「・・・・・・・ソレイユ、さっさと朝宮と月下を転移させろよ。何かの間違いで闇人たちの戦場に来られても困るからな」
『それは分かっています。強くなっているとはいえ、今の2人が最上位クラスの闇人がいる戦場に行くのは死地に飛び込むことと同義ですからね。あなたが転移した後に2人を転移させます』
その言葉を聞いて、影人の小さな不安も消えた。影人は次の戦場に向かうべく、正面の宙に浮かぶ渦へとその姿を消した。
「じゃあ2人とも、僕は次の戦場に行かなければならないから、これで失礼させてもらうよ」
闇奴であった人間の介抱を終えた光司は、剣を一旦虚空へ消すと陽華と明夜にそう言った。
「香乃宮くんは・・・・・これから凄い危険な戦場に向かうって言ってたよね? そんなに危険なの?」
「ああ、きっと今ですら鉄火場だと思う。僕がここに来る前にラルバ様と会って聞いた情報だと、敵はフェリートクラスの最上位の闇人が2体。対応に当たっている光導姫と守護者はこちらも最上位の実力者で、その中には『巫女』・・・・・・・連華寺さんもいる」
光司が心配そうな顔の陽華の問いにそう答えた。風音の名前が出たことに陽華と明夜は驚いたような表情を浮かべたが、自分たちに稽古をつけてくれている日本最強の光導姫の名が出たことから、光司が向かう戦場が修羅場であるといる事が理解出来た。




