第237話 予感(5)
「あら? あらあら、これはまた面白そう。この気配は冥と殺花かしら?」
影人が転移してすぐ、シェルディアは東京に強大な2つの気配が生じたことに気がついた。
「? どうしたんですかシェルディア様? あの2人が何か?」
シェルディア宅で、シマシマパンツを履いた白いぬいぐるみと一緒にテレビを見ていたキベリアは、突然独り言を呟いたシェルディアに不思議そうな視線を向けた。
「何かって・・・・・・ああ、そういえばあなた今は力が封じられてるから分からないのね。じゃあ、教えてあげる。東京に冥と殺花が出現したみたいなの」
「え、冥と殺花がですか!? よりにもよって何であの2人が・・・・・」
シェルディアの言葉を聞いたキベリアは、驚き目を見開いた。キベリアも2人とは同じ十闇のメンバーだから知っているが、あの2人の仲は破滅的と言っていいほどに悪い。
そして2人の仲の悪さを知っているのは、キベリアだけではない。十闇第4の闇『真祖』のシェルディアも当然その事は知っていた。
「そうよね。よりにもよってあの2人が組んで現れるなんて、事情を知っている私たちからすれば不自然の極みだわ。それに、なぜ2人が東京に現れたのかも気になるわ。普通に考えれば、スプリガンが目的なんでしょうけど・・・・・・」
左右に緩く結った髪をサラサラと揺らしながら、シェルディアは思考した。普通に考えれば、冥と殺花はレイゼロールの命令で、スプリガンのよく出現する東京に現れたという事になる。つまり2人の目的はスプリガンだ。
(恐らく間違ってはいないわ。レイゼロールはスプリガンを危険因子と捉えている。だけど、現在でもスプリガンを倒す事はできていない。ゆえに焦ったレイゼロールが最上位の闇人を2人派遣した。何ら矛盾はないけど、どこか引っかかるのはなぜかしら?)
そもそも冥が素直に殺花と組む事を受け入れるとは到底考えられない。冥はレイゼロールの命令に従順ではないからだ。殺花もレイゼロールの命令ならば、しぶしぶ冥と組むだろうが、冥とは組みたがらないはずだ。引っかかりがあるとすればそこか。
「・・・・・・・・・・やめたわ。何かあったとしても私には関係ないし。それより、この面白そうな事態を楽しまなくちゃね」
考えるのは性に合わないとばかりに、シェルディアは難しく考えることをやめた。それよりも、今の自分にはやる事がある。
「キベリア、私たちも行くわよ。準備しなさい」
「い、行くってどこにですか?」
再び、シェルディアに命を与えられたぬいぐるみとテレビを見ていたキベリアが、嫌そうな顔でシェルディアを見た。その顔はシェルディアが何を言うのか見当がついてる、という事を証明していた。
「決まってるわ、冥と殺花が現れた場所によ。まあ、2人は今ごろ光導姫や守護者と戦っているでしょうからこっそり観戦ね」
シェルディアの言葉が自分の予想通りであったキベリアは「ああ、やっぱり・・・・・・・」と諦めたような顔を浮かべた。そんなキベリアの様子を見て、ぬいぐるみはポンとキベリアの肩を叩いた。ご愁傷様という意味だ。
「私、予感がするのよ。とても面白そうな予感が、それと――スプリガンに出会えそうな予感がね」
シェルディアは少女のようにワクワクしたような笑みを浮かべながら、未だに相見えぬ黒衣の怪人に出会えることを期待した。




