第236話 予感(4)
影人が光に包まれ次に目にした光景は、山の近くに広がる民家であった。
「っと、転移は完了か。ソレイユ、あいつらはどっちの方角だ?」
『あなたがいる場所から、100メートルほど先の公園の近くです。現在のところ、明夜の視界を見るに戦いはこちらが優勢と言ったところでしょうか』
「オーライ。あいつらの方には当然香乃宮もいるんだよな?」
影人は軽く走りながらソレイユにそう聞いた。
『はい。ですが10位の彼は闇奴が浄化されれば、近くの闇人たちがいる戦場に移動するはずです。先ほどラルバがそう言っていました』
「そうか・・・・・・・つーか今はまだ余裕がありそうだから聞くんだが、闇人たちの方には誰を派遣したんだ? フェリート、キベリアクラスの闇人が2体なら、並の奴らは言い方は悪いがすぐ死ぬだろ?」
ソレイユの言葉から、今のところ2人に危機は訪れていないことがわかった影人は、先ほどから気になっていた事もついでに聞いてみた。
『ええ、あなたの言うように並の光導姫や守護者では最上位の闇人の相手は務まりません。ゆえに、最上位の闇人が現れた時には、対応に当たる光導姫、守護者は各ランキングの10位以内と決まっているのです。だから私は、キベリアとの戦いにランキング4位である巫女を派遣しましたし、ラルバもランキング10位の彼を派遣したのです』
ソレイユはそこで1度言葉を区切ると、闇人2人という確実な鉄火場になる事が予想される戦場に、誰を送り込んだのかを影人に説明した。
『今回私が派遣したのは「巫女」と「提督」です』
「っ・・・・・・そいつはまた随分とした戦力だな。いや、最上位の闇人が2体ならそれくらいでやっと五分ってところか」
ランキング4位と3位を同時に投入する。普通ならそれは異常事態だろう。もし闇奴などにその2人を派遣すれば明らかに過剰戦力だ。ただでさえ、強力な力を持つ『巫女』と『提督』、その2人を同時に派遣せざるを得ないほどに、2人の闇人は強いということだ。
『あなたの言う通りです。こう言っては何ですが、提督が日本にいてくれて本当によかったですよ。彼女の実力は折り紙付きですから』
「だな。まあ、あいつが日本に来た目的は俺の抹殺か捕縛だから素直には喜べねえが・・・・・・」
提督が現在日本にいる裏の目的を知っている影人からしてみれば、少々複雑な気持ちだ。だからこそ、ソレイユも「こう言っては何ですが」と付け加えたのだろう。
そしてソレイユとの念話で情報を整理している間に、影人の耳に何かと何かがぶつかり合うような、あるいは何かの鳴き声、掛け声などといった戦闘音が聞こえて来た。どうやら目的地に辿り着きつつあるようだ。
「・・・・・・とりあえず変身しとくかね」
自分が表に出る事態を想定して、影人は右手のペンデュラムを握る。周囲に人がいない事を確認して影人は「変身」と一言呟いた。
ペンデュラムの黒い宝石が、夜の闇よりもなお濃い黒い輝きを放つ。そして黒い輝きと、ペンデュラムが右手から姿を消すと、影人の姿は金目の黒衣の怪人へと変化していた。
「・・・・・・頼むから面倒な事にはならないでくれよ」
なぜか激しく面倒な事になりそうな予感を覚えながら、影人は戦場へと向かった。




