第235話 予感(3)
ある夜。日中の暑さも和らいだ6月の夜、自宅でマンガを読んでいた影人の脳内に、ひどく真剣なソレイユの声が響いた。
『影人、緊急事態です。今、大丈夫でしょうか?』
「そいつは大丈夫だが・・・・・・・・緊急事態ってなんだよ、ソレイユ?」
突然のソレイユの念話には影人もいい加減慣れたが、ソレイユが言った「緊急事態」というキーワードに影人は少し緊張したようにそう聞き返した。
『今は時間が惜しいので、すみませんが手短に伝えます。今からつい3分ほど前、東京に強大な気配を放つ2人の闇人が出現しました。そしてその近くに闇奴の気配が1つ。こちらはそれほど強力ではありません』
「・・・・・・強大な気配の闇人って言うのは、フェリートとかキベリアクラスの最上位か?」
影人は読んでいたマンガを閉じて、ソレイユに敵の具体的な強さを質問する。影人のその質問に、ソレイユは『ええ、その認識で間違いありません』と影人の推測を肯定した。
「最上位が同時に2体か、そいつは確かに緊急事態だな・・・・・で、俺の仕事はそいつらをどうにかすることか?」
影人がソレイユに自分の仕事――スプリガンとしての仕事の内容を確認する。影人はそれで間違いないと思っていたのだが、しかし、ソレイユの返答は少し違っていた。
『いえ、確かにそう言った側面がある事も否定はしませんが、あなたにしてもらいたいのは、いつも通りあの2人を見守ってほしいという事です』
「・・・・・・・・? ああ、そういう事か。闇人2体の近くに出現した闇奴の方に、朝宮と月下を行かせたのか」
『はい、理解が速くて助かります。2人はもう既に現場に送りましたので、あなたにはいつも通りの仕事をお願いします。他にも頼みたい事があるのですが・・・・・・・すみません、まずはあなたを送ります。話の続きは2人を見守っている間に』
どうやら色々と焦っているらしいソレイユは、そう言って一旦話を締めくくった。
「わかった、ちょっとだけ待ってくれ」
影人は黒いペンデュラムを持って部屋を出た。靴を履いて自宅を出て、マンション内の階段の踊り場に足を運んだ。
「待たせたな、いいぜ」
『それは分かりましたが・・・・・・・なぜわざわざ自宅を出たんですか?』
影人と視界を共有していたらしいソレイユの問いかけに影人はこう答えた。
「いや、前に1回部屋から転移した時そういや靴履いてなかった問題があってな・・・・・・・変身すりゃもちろんブーツは履けるんだが、変身してない時は色々不便だろ? だから、その時の反省を生かしてな」
そう。前回部屋から転移した時は、よくよく考えれば当たり前なのだが、靴がなかったのだ。その事に後から気づいた時にはもう遅かった。靴下はドロドロに汚れ、それを洗濯に出した影人は母親にカンカンに怒られたのだ。
『た、確かにそれは色々と不便ですね。理由は分かりました。では、転移を開始します。準備はいいですね影人?』
「ああ、大丈夫だ」
一応、緊急事態だと言うのに影人の話で少しぐだったような気がしたが、影人はすぐに気持ちを切り替えた。ここからは、いつも通り真面目に取り組まなければならない。
影人の体が徐々に光に包まれていく。そして影人の体が完全に光に包まれると、影人は光の粒子となってその場から姿を消した。




