第229話 狂拳と殺影(2)
「いや、そうではない。クラウンの話については我が直接現地に行き調査する。お前に頼みたいのは、一種のカモフラージュだ」
「カモフラージュ・・・・・・・・・陽動でございますか?」
レイゼロールのその言葉に殺花が方眉を上げた。殺花には自分の主の思惑がまだ理解できないでいた。
「そうとも言うな。もちろん我1人なら気配を消すことは出来る。ゆえに本来ならそのようなカモフラージュは必要ないのだが・・・・・・・もしクラウンの噂話が本当で、そのカケラが我の探している物の1つだったのならば・・・・・・・その時にはお前のような力を持つ闇人のカモフラージュが必要になるのだ」
「・・・・・・そうでございますか。元よりこの身は主の物。陽動でも何だろうと何なりとお使いください」
「・・・・・・・・・理由も聞かずにそのような言葉か。お前の忠誠心の厚さには我も助かっているよ」
殺花はフェリートと並んでレイゼロールへの忠誠心が高い闇人だ。そして殺花は、その戦闘能力も極めて高い。ゆえに殺花の存在をレイゼロールは重宝している。
「己のような役立たずには勿体なきお言葉です。己は情報収集も専門のはずなのに、主の求める情報を何一つ持ち帰れなかった役立たず。かたや『道化師』に情報収集も負ける始末。・・・・・・本当に申し訳ない所存です」
「気にするな・・・・・・・・・・と言っても、お前やフェリートは気にするか。ならば、今回の働きで挽回しろ。今からお前に、我の頼みその内容を話す」
恥じるような物言いの殺花に、レイゼロールはあえて威厳たっぷりにそう述べた。レイゼロールのその言葉に殺花は「はっ」と短く頷いた。
「では話そう。お前にしてもらいたいカモフラージュ、それともう1つ目的について――」
レイゼロールがいよいよその事を話そうとした時、暗闇からある男の声が聞こえてきた。
「おい、レイゼロール。てめえ、いきなり呼び戻しやがって何のようだよ? くだらねえ話だったら承知しねえからな」
粗野な言葉と共に暗闇から姿を現したのは、1人の青年だった。
黒色の道士服に身を包み、長い髪を三つ編みに纏めたその男性の姿を見たレイゼロールは、そのアイスブルーの瞳を少し曇らせた。
「・・・・・・・・・冥か」
「おう、俺だ。ったく、此処まで戻って来るのは大変だったぜ。・・・・・・で、俺を呼び戻した用件ってのは――」
冥と呼ばれた青年がガリガリと頭を掻きながら、そう言った最中、殺花が音もなくその姿を消した。
そして次の瞬間には、冥の首元に鈍い輝きを放つ短刀が添えられていた。




