第228話 狂拳と殺影(1)
「・・・・・・・・それは本当か? クラウン」
「はいー。ワタクシが各国で道化芝居をしていたところ、お国はスイスで聞いた噂話ではございますが・・・・・・・・・・スイスのある地域では黒い流星のカケラが今も祀られているとか何とか。まあ、あくまで噂ではございますが・・・・・」
その名の如く、まるで道化師のようなペイントを顔に施した男が恭しくそう述べた。
「そうか・・・・・・・・黒い流星のカケラか。・・・・・可能性はあるな」
クラウンと呼ばれた男の話を聞き終えたレイゼロールは、珍しく気分が高揚していた。なぜなら、その流星のカケラがレイゼロールの探し物である可能性があるからだ。
この世界のどこか。辺りが暗闇に包まれた場所で、石の玉座に腰掛けるレイゼロールはクラウンに労いの言葉ををかけた。
「よくやったぞクラウン。お前は見た目こそふざけているが、相変わらずやるべき事を忘れてはいないな」
「お褒めに預かり光栄でございますー、レイゼロール様。といっても、ワタクシは世界で楽しくおちゃらけていただけなのですがね」
クラウンが亜麻色の髪を揺らし、戯けて見せた。態度、見た目、言動、その全てがふざけているが、それがクラウンの道化師としての矜持である事をレイゼロールは知っている。ゆえにレイゼロールはクラウンのそのような態度を咎めなかった。
「それはいい。それがお前の元々の望みだったからな。・・・・・そしてお前のその望みは我との契約の対価。お前が我に従う限りは、我はその事について何も言うまいよ」
「ありがとうございますー。いやはや、理解がある主人を持つ事ができて、ワタクシめは幸せでございますね。では、ご主人。ワタクシはこれで失礼します」
レイゼロールの言葉に、クラウンは再び恭しく傅いた。そしてパチンとクラウンが指を鳴らすと、クラウンの姿が消えた。その不可思議な光景に、だがレイゼロールは驚く事はなく、周囲の暗闇にある呼びかけを行った。
「殺花、いるか?」
「御意、ここに」
すると、暗闇から音もなく1人の女性がレイゼロールの前に現れた。
その女性を一言で表すならば「黒」だった。純黒のマントに身を包み、足元、髪、瞳の色、その全てが黒。ゆえに周囲の暗闇とほぼ同化しているが、唯一マントの後付けの襟から覗くその肌の色は幽鬼のように白い。
「己に何か御用でしょうか。我が主」
平伏の姿勢を取りながら、殺花はくぐもった声でレイゼロールにそう聞いてきた。顔の下半分が襟で隠れているため、殺花の声はどうしてもくぐもって聞こえるのだ。
「ああ。お前の事だ、先ほどのクラウンの話は聴いていただろう。その事で、お前に頼みたい事がある」
「承りました。では己は瑞西に赴き、主の探し物について調査、或いはその探し物を持ち帰ればよろしいのでしょうか?」
レイゼロールの指摘の通り、クラウンの話を暗闇から聴いていた殺花は、レイゼロールの頼みがそのようなものであるかを確認した。だが、レイゼロールの言葉は殺花が予想したものとは違っていた。




