第226話 特訓の成果(4)
「で、ソレイユ。今回の闇奴はどんな具合なんだ? 俺は見てるだけで大丈夫そうなのか?」
下駄箱で靴に履き替えながら、影人はそんな事を聞いた。一応、ポケットにペンデュラムを忍ばせてはいる。だが、実際に自分が戦う可能性があるかもしれないのであれば、事前にそのことを聞いておきたい。
『強さはそれ程ではないですね。気配の大きさがそんなに大きくはありません。よくて中くらいの闇奴でしょう。10位の彼もいますし、あなたは見守るだけだと思いますよ』
「そうか・・・・・・まあ確かに香乃宮がいりゃ大抵は何とかなるしな。だけど問題はあの2人だろ。あいつらまだ括りとしては新人だろ? 中くらいの強さの闇奴って言ってもてこずるんじゃねえか?」
靴を履き替えた影人は目的地に向かうべく、校門を出た。影人の懸念にソレイユは、少し含むような言い方でこう言ってきた。
『それは・・・・・・・・どうでしょう? あなたの見ていない所で、2人は『巫女』に稽古をつけてもらっていたようですから。もしかしたら、私たちが思っているよりもずっと強くなっているかもしれませんよ?』
「あいつらが? ・・・・・・・・・まあ、俺的にはそっちの方が助かるがな。とりあえずは、期待せずに見守るよ」
影人の言葉にソレイユは『素直じゃありませんね』と呆れたように言葉を返してきたが、影人はそれを無視すると、非日常に向かうべく駆け出した。
「さてさて、戦いはどうなってるか・・・・・・・・」
周囲に人の姿がないことを確認すると、影人は戦いが行われているであろう中心地――今回の場所は閑静な住宅街――を見るべく、近くの住宅の壁に身を潜めた。そしてそこから顔を最低限出す。少し久しぶりの影から見守るスタイルである。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「ブモッ!?」
見てみると、ちょうど変身した陽華が闇奴に強烈な蹴りを加えているところであった。陽華が蹴り飛ばした闇奴はいわゆる獣人型と呼ばれるタイプで、その特徴的な顔から牛人だろうという事が分かる。
「ブモォォォォォォォォォォォッ!」
だが、陽華に蹴り飛ばされた闇奴は怒り狂ったように雄叫びを上げると、その筋骨隆々とした肉体で持っていた棍棒のようなものを振りかぶった。
「明夜!」
「ええッ!」
その動きから大上段からの強力な一撃を予測した陽華は、後方に控えていた明夜に呼びかけた。
「氷の蛇よ! 絡めて凍れ!」
明夜が杖を振るい、氷の蛇が地面を這いずる。氷の蛇は一瞬で牛人の足元でも到達すると、牛人の体を這いずり上り棍棒と右手に絡み付いた。そして蛇は巨大な氷塊へと姿を変えた。
「!?」
牛人は再び驚いたように自分の右手を見つめるが、その隙を陽華たちは見逃さなかった。
「ふっ!」
光司が神速の速さで牛人との距離を詰める。光司は右手の剣を振りかぶり、凍りついた牛人の右手を切り落とした。
「ブモォォォォォォォォォォォ!?」
切り落とされた右腕の断面から闇奴が大量の血を流す。大量の血を流した事により闇奴は、大幅に弱体化することを余儀なくされた。
「2人とも!」
「ありがと香乃宮くん! 明夜!」
「ええ! やるわよ陽華!」
「「汝の闇を我らが光に導く」」
2人の武器、ガントレットと杖が光に変わり陽華と明夜の手に宿る。陽華は右手を、明夜は左手をそれぞれ重ね合わせ、言葉を紡いだ。




