第224話 特訓の成果(2)
『スレた考え方してんな、お前。よく言うじゃねえか、人間見た目よりも中身だってな』
「はっ、都合の良い幻想だな」
イヴが面白くなさそうに言葉を返してきた。そして、影人はその言葉だけ肉声で答えを呟いた。別に意味はなく、咄嗟的にそう言ってしまっただけだ。
(それと、俺はあんまりそっち系の話は好きじゃない。だからそう言った話は振ってくれるなよ、イヴ。まあ、お前もそう言った事に関心を持つ年頃なのかもしれんがな)
敢えてイヴが怒りそうなワードを内なる言葉に込め、影人はその話題を逸らそうとした。
『あ? また父親面かてめえ? ちっ、シラけちまったぜ』
そしてイヴは影人の思惑通り、もう何も語りかけて来なくなった。そんな分かりやすいイヴに、影人は自然に笑みを浮かべてしまう。この分かりやすいところがイヴの可愛らしい点だ。
「ふっ、まだまだだな。イヴ」
軽く勝ち誇ったような表情を浮かべ、影人は風洛高校の正門を潜った。
「1限目は・・・・・・・・・歴史か」
教室の自席に座った影人は、1時間目の授業の準備をすると何とはなしに窓の外に視線を向けた。影人の席は窓側の1番端。ゆえに窓の外も、その下側も影人は見る事ができる。
「と・・・・・・・・・・そういや、そろそろあの時間か」
(いや何の時間だよ)
影人の呟きを聞いてしまった前の席の生徒は、内心そう突っ込んだ。別に影人の前の席の生徒は、突っ込みたくて突っ込んでいるわけではない。だが、席の関係上必ずといっていいほど、影人の独り言が聞こえるのだ。ゆえに、生徒は反射的にそう突っ込んでしまった。
まさか、自分の前の席の人物が律儀に心中で突っ込んでいるとは露知らぬ前髪野郎は、その視線を正門へと向けた。
「あー、ヤバイヤバイ! 今日もヤバイよ明夜! このままじゃ遅刻しちゃう!」
「そんなのいつものことよ陽華! 大丈夫、まだ時間は1分あるわ! 門なんてぶっちぎってやるわ!」
すると2人の少女がまるで疾風のようなスピードで、風洛高校の正門目掛けて走る姿が影人の視界に映った。
「・・・・・・・・・・毎日毎日ご苦労なこった」
風洛高校が誇る名物コンビ、朝宮陽華と月下明夜の姿を見た影人は呆れたようにそう呟いた。なんだか久しぶりに見たような気がしないでもないが、よくよく思い返してみると2、3日前も見たので全く久しぶりではない。
「ふん! 今日こそは間に合うまいよ! チャイムは――今鳴った!」
正門前の体育教師、上田勝雄がチャイムと同時に正門を閉めようと正門に手を掛ける。窓際に集まった生徒たちの盛り上がったような声を聞きながら、影人は日常風景と化しているその光景を静かに見つめた。




