第222話 この前髪野朗にドキドキを(5)
「どうだった影人? 僕はかなり面白かったけど」
「そうだな・・・・・・・・・まあ思ってたよりは面白かったかな。特に後半」
「だよね! 僕も後半からはワクワクしっぱなしだったよ!」
恋愛映画を見終えた2人は、地元に戻って来ていた。夕日が世界を照らす中、2人は変わらず恋人つなぎのまま映画の感想を話し合っていた。
「で、今日はどうだった? 満足は出来たか?」
影人が暁理に今日1日の感想を聞いた。暁理の今日の目的が、少女マンガっぽい事をやることだと誤解している影人は、そういった意味で暁理に問いかけたのだ。
「うん! もちろん、大満足だよ! 今日は本当に楽しかった! 本当に今日は付き合ってくれて、ありがとね影人」
「おうよ、ならよかったぜ。つーか、悪いな暁理。こういった事なら、お前の言う通りちゃんとした服着てくるべきだったな。まあ、俺のちゃんとした服なんてあんまりないけどな」
自分の服装を見下ろしながら、影人は暁理へと謝罪した。暁理のバッチリとした服装とは違い、お世辞にも自分の服装は釣り合ってはいない。一応、この服装は自分のお気に入りだし、普段着でもあるのだが、そういった事では今日はなかった。
「いや、全然いいよ。確かに僕も最初は文句言っちゃったけど、なんか影人らしいし。でも、1回は君のちゃんとした服も見てみたいな。僕、君のそういった服装は見た事ないし」
「はっ、ならいつかは見せてやるよ。馬子にも衣装って感じで驚くなよ?」
「ふふっ、なにさそれ? わかった、じゃあ楽しみにしてるよ」
影人の言葉に暁理はクスクスと笑った。
そしてしばらく他愛のない話をしていると、2人のそれぞれの帰路への分かれ道が近づいて来た。
「じゃあ、今日はこれでお別れだな。またな暁理」
「うん、またね影人。・・・・・・・・・・ねえ、影人。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ目つぶっててくれない?」
「は? なんで――」
「い、いいからっ!」
なぜか顔を赤くしている暁理の妙な要求に、影人は反射的に従ってしまった。影人の両目は前髪で覆われているため、暁理からは見えないのだが、影人の細かな体の動きから、暁理は影人が瞳を閉じた事を察した。
(い、いくぜ僕・・・・・・・・・・・これが今日の僕の最後の、そして最大の攻めだ!)
暁理は決心を固めると、グイっと自分の顔を影人の顔へと近づけた。
そして――
(ん? なんだ? 頬っぺたになんかへんな感触が・・・・・・)
一瞬だったが、何か温かいものが影人の頬に触れた。だが目を閉じていたので、影人にはそれがなんだか分からなかった。
「じゃ、じゃあ、僕もこれで失礼するよ! バイバイ!」
暁理は恥ずかしいような、それでいてニヤけたような奇怪な表情でそう言うと、分かれ道を走り去っていった。
「あの感触は・・・・・・・・・・・・いや、まさかな。流石のあいつも、好きでもない奴にあれをするほど気安くはないだろ」
きっと他の何かだろう。影人はそう納得すると、自分も帰路へと着いた。
(・・・・・・でも、なんで心拍数が上がってるんだ?)
だが影人の心臓はいつもよりも、なぜかかなりドキドキとその鼓動を刻んでいた。




