第221話 この前髪野朗にドキドキを(4)
「なーんだ、そういうことかよ。まあ、お前も女子だもんな。それで今日のお前の行動に合点がいったぜ。さてはお前少女マンガのシチュエーションに憧れたな? だから手頃な俺を使って、今日は色々と少女マンガっぽいことをしようと思ってたわけだ」
だが、暁理のその言い訳に影人は納得がいったという風にしきりに頷いた。実はさすがの影人も今日の暁理はどこかおかしいと思っていたのだ。服装はいつもの暁理とは全く違うし、手は繋ぎたいというし、今に至っては恋愛映画を見たいという。確かに暁理も女子であるからそういったことに元々多少の興味はあったのだろう。そこに少女マンガにハマったという事実が加われば、その興味は行動へと移される。
そこで一応男性で友人であり、そういったことに気軽に使える影人に白羽の矢が立ったのだろう。そのことに利用されたことは少々腹立たしいが、実際に「少女マンガにハマってて、少女マンガにありそうなシチュエーションをやってみたいから、付き合って欲しい」と言うのは思春期の自分たち世代からしてみれば、かなり恥ずかしい。そこは影人も思春期なので、理解がある。なので怒るということはしない。
代わりに、影人は自分の数少ない友人に今日くらいは協力してやろうと思った。
「しゃーねえな。そういうことなら俺も今日は協力してやる。ま、俺は少女マンガの男みたくイケメンじゃねえし、見た目も暗いがそこは我慢してくれよ?」
そう言って、影人は「んじゃ、見るのこれで決まりな。チケット買いに行こうぜ」と再び暁理の手を握ってきた。
「え? え?」
暁理はまだ状況がよく理解できていなかった。それも仕方ないだろう。何せ自分の苦し紛れの言い訳に、なぜか影人は納得し意味の分からない理屈で暁理に協力すると言い出してきたのだ。しかもまた手を握ってくれたのだから、暁理の脳内は色々とパンクしかけていた。
そして影人に手を引かれるまま、暁理は映画館のチケット販売機の前についた。そしてあれよあれよという間に、影人と暁理は恋愛映画のチケットを購入した。
「ちっ、せっかくならペアシートにしたかったがちょいとお高いしな。・・・・・・・・おい、暁理。もしお前が望むなら、映画見てる最中も手繋いでてやるけどどうする?」
「え・・・・・・・・あ、お、お願いします・・・・・・?」
「何で疑問形なんだよ。ま、そこは了解した。つーか、少女マンガに憧れてるなら手のつなぎ方も変えた方が良いよな。えーと、確かこうだっけか」
影人は今まで普通に握っていた暁理の手と自分の手を絡めるような握り方に変えた。俗に言う、「恋人つなぎ」というやつだ。
「! え、影人・・・・・・・・・?」
「くくっ、やるなら徹底的にだ。今日1日は俺が仮初めの彼氏もどきになってやるよ。さあ、軽食と飲み物を買おうぜ暁理」
にやりと笑顔を浮かべて自分を見つめてくる影人。さっきまでの影人とは全く違い、今度は暁理が影人に攻められている状態だ。
(な、なんか誤解されてるみたいだけど・・・・・・・・こ、これはこれで悪くないかな・・・・・・うう、というかさっきからドキドキが止まらないよ、僕)
だが、そのドキドキがどこか心地良い。脳内で幸せ物質が出ていることがわかる。
「・・・・・・・・・えへへ、今日はいい日だなぁ」
「? なんかいったか暁理?」
「ううん、何でも無い。――ただ、楽しいなって」
暁理の言葉に影人は「そうかい」と笑みを浮かべ、2人は恋人つなぎのまま、飲食用のショップに足を運んだ。




