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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第22話 二度目の変身(3)

「おかしい・・・・・レイゼロールは一体何をしに現れたの?」

 神界からレイゼロールと光導姫・守護者の戦いを見ていたソレイユは、レイゼロールの動きに疑問を覚えた。

 ソレイユは光導姫と同じ光景を神界から見ることができる。今はレイゼロールと戦っている内の1人からその光景を見ていた。

 その様子を見ていると、レイゼロールの動きがどこか不自然だ。光導姫と守護者の攻撃をただただいなしている、そんな感じである。

「そもそも、レイゼロールはなぜ都心に・・・・?」

 レイゼロールは通常、己の気配を常に遮断している。普段はその気配を遮断しているため、どこにいるかわからないが、今回はわざわざ気配を遮断していない。

 過去にもレイゼロールがこのように現れたことがあった。だが、その時はこのような戦闘ではなく、もっと激しい戦闘が行われた。

 ソレイユは今回もそのような戦いが行われると踏んで、日本の優秀な光導姫と守護者を集結させたのだ。

 しかし今回のレイゼロールの動きは何かおかしい。まるで時間を稼いでいるような――

「・・・・・・まさか!」

 ソレイユはレイゼロールの気配とは別に闇奴の気配を探った。つまり陽華と明夜たちを向かわせた下級の闇奴の気配をだ。

「これは・・・・・・!?」

 だが、その闇奴の気配はもうなかった。おそらくもう浄化されたのだろう。そして、その代わりに凄まじい闇の気配をソレイユは感じた。

「この気配のクラスは・・・・・・・闇人!?」

 そこでソレイユは悟った、自分が罠にかけられたということに。レイゼロールの狙いは初めから、陽華と明夜だったのだ。

「やられましたね・・・・・・!」

 つまりはレイゼロールは囮だったのだ。しかも低級の闇奴も囮にした二重の囮。ソレイユは完全に意表を突かれた。

「ですがここでレイゼロールをフリーにするわけにも・・・・・」

 本当なら今すぐにでも囮のレイゼロールを無視して、2人に救援を向かわせたい。だが、そうなるとレイゼロールが自由になってしまう。それだけは絶対にだめだ。

「・・・・・・影人」

 無視できない囮にソレイユはグッと奥歯を噛む。陽華と明夜はソレイユの切り札の1つだ、失うわけにはいかない。

 ソレイユはどうしようもない事態に、もう1つの切り札に全てを託した。









 その男が自己紹介のようなものをした瞬間、影人は人生で初めて殺気のようなものを感じた。

 全身の産毛が逆立ち、鳥肌が立つ。本能が逃げろと叫ぶ。しかし影人は本能の声を無視して、黒い宝石のついたペンデュラムを右手に持ちこう呟いた。

変身チェンジ

 黒い宝石が黒い輝きを放つ。すると、影人の服装が変化した。制服は見る影もなく、黒の外套へ変化し、深紅のネクタイが胸元を飾る。紺色のズボンに黒い編み上げブーツを身につけ、鍔の長い帽子が出現する。

 それに伴いその長すぎる前髪が、少し長めの前髪に変化しその端正な顔が露わになる。最後に瞳の色が金に変化し、変身は完了した。

 そしてタイミングのいいことに、影人の変身が完了し終えた後、フェリートと名乗った男は再び口を開いた。

「しかし、守護者が付いているとは思いませんでした。今回の闇奴は最低クラスでしたので、守護者はいないと思っていたのですが・・・・・」

 フェリートと名乗った闇人はチラッと光司を見て嘆息した。

「しかもあなたは相当に優秀な守護者だとお見受けしました。いやはや、これは面倒なことになりました」

「ごたくはいい! 闇人が一体何の用だッ!?」

 光司が苛立ったように、フェリートに言葉を投げかける。今は少しでも情報と時間を稼がなくてはならない。早く逃げるように光司は後方の陽華と明夜に逃げるように合図を送る。

「用というのは簡単でございます。あなたの後ろの光導姫たちを抹殺するのが、私の用です」

「「ッ!?」」

 フェリートが何でも無いように穏やかな口調で言った言葉に、陽華と明夜は体が震えた。それはきっと恐怖からだろう。

 そして2人は圧倒的な力の差を感じていた。きっと今の自分たちではこのフェリートという闇人には勝てない。

 しかしそのことが分かっていても、2人はお互いに顔見合わせ光司の隣に立った。

「な!? 何をしてるんだ! 早く逃げろッ! 今の君たちではこいつには勝てない!」

 光司が焦りと苛立ちの混じったような顔で、隣の2人を見る。このままでは一方的に虐殺されるだろう。それほどの彼我ひがの実力差がフェリートと2人にある。

「・・・・・わかってるよ、私たちではこの人には勝てないって」

 陽華が真剣な顔でガントレットを構える。

「ならッ!」

「でもそれは香乃宮くんも同じでしょ?」

「ッ・・・・・!」

 明夜の言葉に光司は素直に驚いた。まさか2人がそこまで分かっているとは、光司も思っていなかった。その会話を聞いていたフェリートも、「ほう・・・」と驚いているようだった。

「それでもッ! 守護者の僕と光導姫の君たちではその価値が違う! 確かに、僕だけであいつに勝つのは極めて難しい。でも、ここは・・・・・!」

「命に価値の違いなんてないよ、香乃宮くん」

「陽華の言うとおり。それに逃げたところで、最終的には殺されるのがオチでしょ? だから」

 陽華と明夜は覚悟を決めた瞳をしながらも、不敵に笑ってみせる。そして声を合わせてこう言った。

「「私たちも戦うッ!!」」

 その2人の覚悟に光司は目を見開く。この2人は自分が思っていたよりも遥かに強かったようだ。光司は本当に仕方なさそうに、ため息を一つ漏らすと、答えを返した。

「・・・・・わかったよ。ただし――」

「さすがに長過ぎます」

 光司が言葉を紡ごうとした瞬間、フェリートは超速で襲いかかってきた。その攻撃に唯一反応できた光司は、同じく凄まじいスピードでフェリートを向かい打つ。

「ッ!? 卑怯な・・・・・!」

「殺し合いに卑怯もクソもありませんよ。それにここまで待ってあげた私は随分と紳士の割合に入ると思いますが」

 光司の斬撃をどこから出したのか闇色のナイフで受け止め、フェリートは涼しい顔で応じた。

「うそ、速すぎる・・・・・!」

 その攻撃に反応できなかった明夜が思わず言葉を漏らす。明夜と同じように陽華も全く反応できなかった。

 そしてその瞬間に全ては終わっていた。

「さて、お命を頂きます」

「え?」

 突然自分の後ろから響いた声に明夜は、無意識に振り返っていた。

 次に明夜が見た光景は、光司と戦っているはずのフェリートが自分の胸に手刀で突きを放っているものだった。

 そしてそこで月下明夜の命は潰えたはずだった。――通常ならば。


「鎖よ」


 しかし明夜は死ななかった。後1センチで手刀による突きが明夜の心臓を貫こうとしたところで、フェリートの手刀は闇色の鎖に阻まれた。

「これは・・・・・」

 フェリートが本当に驚いたように鎖に絡まれた自分の右手を見る。そして、陽華と光司はようやくフェリートが2人いることに気づいた。

「み、明夜!? 大丈夫ッ!?」

「ッ!? 一体どういうことだ!?」

 光司はほんの一瞬だけ視線を後方に向け、自分の正面にいるフェリートを見る。どういった原理かはわからないが、フェリートは2人いるのだ。

 そして明夜を襲ったフェリートを止めた人物が林の中から現れた。

「・・・・・・残念だったな」

 右手で闇色の鎖を引き寄せながら、スプリガンはその金色の瞳で明夜を襲った方のフェリートを見た。

「・・・・・・あなたは何者です?」

 フェリートが警戒の色の灯った目をスプリガンに向けた。しかし、その問いに図らずも答えたのは陽華だった。

「スプリガン・・・・・・」

 呆然と、しかしどこか感動を含んだような声で陽華はそう呟いた。


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