第219話 この前髪野朗にドキドキを(2)
「ダメだこの世界。早くなんとかしないと・・・・・」
「あ、影人。席空いたよ、座ろう」
現実に絶望して、そう呟いている影人の腕を引っ張りながら、暁理は影人と共にシートに座った。
映画館の最寄りの駅に辿り着いた2人は、そこから歩いて5分ほどの映画館を含む大型施設に足を運んだ。
「えへへー、なに食べよっかな! フードコートのメニューどれも捨てがたいんだよね!」
「相変わらず食べる事しか考えてないわね陽華。せっかくちょっと遠出してきたんだから、他のことも考えましょうよ。例えば、ヒッチハイクして『へい彼女! 今日どうだい?』とか言ってみるとか」
「明夜、ここでヒッチハイクは無理だよ・・・・・・・というか、どうしたの? なんか明夜きょうはいつも以上にぶっ飛んでる気がするけど」
「そうかしら? きっと出番が久しぶりだったから張り切っちゃったのね。とりあえず今日は遊び倒しましょ」
どこからか聞いた事のある声がした影人は、その首を周囲に回した。だが、人が多すぎたこともあってか、その声の人物たちの姿は確認出来なかった。
「気のせいか・・・・・・・?」
「ん? どうしたのさ影人。誰か知ってる人でも見かけたのかい?」
影人の仕草に暁理が首を傾げた。影人はそんな暁理に「何でもない」と言葉を返した。
「知ってる声を聞いた気がしたんだが、気のせいだったみたいだ。ほれ、映画館は3階だろ? 行こうぜ」
風洛の名物コンビのことがチラリと頭に過ぎったが、今はあの2人の事はどうでもいい。プライベートの時に仕事に関する事は出来るだけ思い出したくない。しかも遊んでいる時は尚更だ。
「う、うん。あ、あのさ影人・・・・・・・・・・こ、ここ人が多いだろ? だ、だから、はぐれないように、手、手を繋がない・・・・・?」
顔を赤く染めながら、暁理は思い切ってチラリと影人を見た。ただでさえ、暁理の思い描いていたデートとは大きく乖離している。今のままでは、嬉し恥ずかしのドキドキデートなどは絵に描いた餅である。ゆえに暁理は攻めに出た。
「は? 手? ガキじゃあるまいし、そうそうはぐれるかよ。やだね、俺は」
だが、影人の反応は冷めたものだった。面倒くさそうに首を横に振ると、そのまま歩こうとする。
(くっ・・・・・・さすが影人。守りが固い。でも、今日の僕は攻めるよ! じゃなきゃ何も変わらない!)
暁理は決意を固めると、先を歩く影人の左手を自分の右手で握った。




