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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
217/2051

第217話 デートは日本語で日付(4)

「おい暁理。てめぇよくも――」

 それから3分ほど待っていると、そんな声が近くから聞こえてきた。暁理のよく知っている声、影人の声だ。

「や、やあ影人。今日は来てくれてありがとう! ちゃんとした服装で――」

 暁理がその声の方向に向き直り、影人の姿を見る。だが、影人の姿を見た暁理はその表情を固めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、何でそんな格好してるんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・君、何でそんな格好してるの?」

 2人はお互いの姿を見るなり意味が分からないといった感じの表情になった。









「いや、僕言ったよね!? 今日はデートだからちゃんとした服装で来てって! なにさ、その近所のおっさんみたいな格好は!?」

「うるせえ! 俺の私服にケチつけんな! 花の男子高校生の私服におっさんとはなんだ! おっさんとは! 後、デートの日本語の意味は日付だ!」

「それを言うなら花の女子高生じゃないかな!? それと最後の言葉意味不明だから! どちらかと言うと、デートはあんまり日付って意味で使わないよ! いやというかその意味ではほぼ使わない!」

 2人はお互いの姿を見るやいなや、ギャーギャーとわめき合っていた。2人の様子をこっそりと窺っていた周囲の野郎共は「あっ、あいつ男だけどこれは大丈夫なやつだ」と即座に理解し、微笑ましそうに2人の様子を見守っていた。全く以て都合の良い野次馬たちである。

 ちなみに暁理に「近所のおっさん」と言われた影人の服装は、奇妙なゆるキャラ系もどきが描かれているよれた黒のTシャツに、カーキ色の短パン。それに足下を飾るのは長年履き親しんだゴム草履。こう近所の潰れかけの服屋で投げ売りセールでもされているかのような服装であった。「近所のおっさん」という暁理の言葉は的を得ていた。もしそのほかにも影人の服装を表す言葉があるなら、「夏休みの中坊チュウボウ」だろうか。どちらにしても、影人の服装はとてもデートに着ていくような服ではない。

「ああ? んじゃあ、今日お前は俺と男女の意味でのデートをしようとでも思ってたのか? なんだ? お前俺のこと好きなのか?」

「んな・・・・・・・・・・・・!?」

 前髪野郎のその言葉に暁理は瞬時にその顔を赤く染めた。そしてこうも思った。「この前髪野郎は頭がイカれているのか」と。

(ふ、ふ、普通そんなことを面と向かって面倒くさそうに聞く!?)

 年頃の乙女でもある暁理の心中は、可哀想にデリカシーゼロ、いやマイナス男のために混乱の極みに達した。

 そんな暁理の様子に気が気ではないのが周囲の野次馬どもだ。暁理のその反応から、暁理が前髪野郎のことを異性的に気にしているのは明白。完全に大丈夫だと思っていた野次馬どもは一瞬にしてまたその態度を激変させた。具体的にはダサい格好をした前髪野郎に、呪詛の言葉と殺人的な視線を送ったりしていた。

「ええ? どうなんだよ? まーさか、マジだったりするのか? どうなんだよ、暁理ちゃん?」

「っ・・・・・・・・・!?」

 だが、影人は暁理をおちょくるのが楽しくて、そんな視線や呪詛にはまるで気がついていなかった。影人からしてみれば、休日の予定を潰された腹いせにおちょくっているだけなのだが、暁理からしてみればそれはえげつない問いかけだった。

(どどどどどうする!? 何て答えれば良いんだ!? ここは思い切って正直に・・・・・・・いややっぱりダメだ! 僕が望んでいるのはもっとドラマチックな・・・・・というか影人いま僕のこと「ちゃん」って! ちょ、ちょっとだけ嬉しい・・・・・・)

 暁理の心の中は、なんかもう乙女だった。普段は呼び捨てなので、唐突に「ちゃん」などと女性的な呼び方をされてはこうドキッとするというか、嬉しい。例え、それが今のような冗談的な言い方であってもだ。早川暁理はチョロかった。

(ううっ・・・・・・・・でもそろそろ答えないと影人も本格的に怪しむだろうし・・・・・)

 だが、そろそろどのようなものにしろ暁理は答えを出さねばならない。

 そして影人と野次馬が密かに見守る中、暁理が出した結論は――

「や、やだなー影人! 僕が君のことを? そんなわけないじゃないか! 僕にだって相手を選ぶ権利はあるんだぜ? 今日の僕の格好は単純に僕の気分だし、それにデートは日本語で日付って意味だよ!」

 はぐらかすことだった。しかも最後の言葉に関しては影人の言葉をパクった上に意味不明だった。簡単に言うと暁理はヘタレだった。

「おう、そうだよな。デートは日本語で日付だ。っと、おちょくってわるかったな暁理。そろそろ行こうぜ、映画見に行くんだろ?」

 だが、やはりこの前髪は頭がどこかおかしいのか、なぜか暁理の言葉に納得した。現に周囲の野次馬どもは再びホッとしたような顔を浮かべているが、「あの子は何を言っているんだ?」とその心中に疑問を抱えていた。

「う、うん! じゃあ、行こっか!」

 暁理は少しだけぎこちのない笑みを浮かべると、影人と共に駅のホームを目指すべく歩き始めた。

(うう・・・・・・・・僕のいくじなし。これじゃあ、いつもと全然変わらないじゃないか・・・・・・・・)

 内心どこか後悔する暁理。だが、暁理はまだ諦めたわけではない。

(でも、せっかく今日は僕もオシャレしてきたんだ! まだチャンスはある! 頑張れ僕!)

 暁理は内心を切り替えると、どこか決意に満ちた瞳で横を歩く影人を見つめた。


 ――ということで、後半戦に続く。

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