第215話 デートは日本語で日付(2)
(偶然なんだろうが、キルべリアさんの服って、あのキベリアと一緒なんだよな。だから、どうしてもキルべリアさんの服装を見るとキベリアの事を連想しちまう)
チラリと影人はキルべリアの服装に目を落とした。キルべリアの服装はキベリアと同じく黒いドレスだ。
もちろん、キルべリアがキベリアということはありえない。キベリアは赤髪で髪が短く、身体つきもどちらかと言うとスレンダーだった。対してキルべリアは深緑髪で髪が長く、身体つきはグラマラスだ。キルべリアとキベリアは全てが対照的だった。
「っと、そういや急いでるんだった。またな、嬢ちゃん。キルべリアさんもこれで失礼します。じゃあ!」
ここで無駄な思考をしている場合ではないと思い出した影人は、そう言い残してこの場を去った。
「ええ、またね影人」
「は、はい。また」
走り去る影人にシェルディアは変わらず笑顔で、キルべリアはやはりどこかぎこちのない笑みで影人を見送った。
「ふふっ、『キルべリア』って名前はなんだか慣れないわね。ねえ、キベリア?」
「それはシェルディア様にとってはそうでしょうが・・・・・・・・・・一応、そっちの名前の方は人間界での私の名なので、私は何も感じないです。というか、シェルディア様とゼノを除いた闇人は全員人間界用の名前がありますし」
シェルディアの言葉にキルべリア――もといキベリアはそう言った。元々、世界各地に散らばっていた闇人は必ず人間と関わる。そのため、闇人はそれぞれ人間界用の名前がある。キベリアの場合は、「キルべリア」という名前だ。ちなみにこの名前はキベリアの人間時代の名前である。
「ふーん、そういうものかしら。あなたに外ではその名前で呼んでほしいって言われてたから、影人にはその名前で紹介したしその名前で呼んでるけど、意識してないとキベリアって呼んじゃいそうだわ。ねえ、面倒だからキベリアでいいんじゃない?」
「それだけは守ってくださいシェルディア様。私は慎重なんです。どこに光導姫や守護者がいるか分からないんですよ? いくら私が戦闘時は姿を変えているといっても、名前の一致だけで怪しむ人間もいます」
普段はシェルディアに服従しているキベリアも、ここだけは譲れないとばかりに真剣な表情になる。そんなキベリアの様子を見たシェルディアは「ハイハイ、分かったわよ」とどこか呆れたように頷いた。シェルディアからしてみれば、キベリアの慎重さは行き過ぎだと思うのだが、それがキベリアの性格なのだから仕方ない。可愛がっている者のわがままの1つくらいはシェルディアも聞いてやる。それが器の大きさというものだ。
「ところで、帰城影人でしたっけ? シェルディア様は、あの人間の不敬をなぜ咎めないんですか? 私あの人間がシェルディア様のこと『嬢ちゃん』て呼ぶたびにゾッとしますよ」
そう。キベリアが影人にどこかぎこちなかったのはそれが原因だった。
当然と言えば当然だが、帰城影人という少年はシェルディアの事を年下の人間だと思っている。そのため言葉遣いもそのような、シェルディアの正体を知っているキベリアからしてみれば、かなり不敬に聞こえる言葉遣いだ。だからキベリアはいつシェルディアが怒るか気が気ではないのだ。




