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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第21話 二度目の変身(2)

数日後、よく晴れた日の夕刻。ここしばらくは、闇奴は出現していなかったため、影人はごく普通の高校生として日常を過ごしていた。

 学校からの帰り道、突如影人の頭の中になじみのある音が響いた。

 キイィィィィィィィィィィィィィィィィン

「くそったれ、しばらくぶりだな!」

 影人はそう毒づくと、駆けだした。今回、闇奴が出現した場所はここから5分ほどの場所だと合図は告げていた。なので転送はされないだろう。

『影人、すみませんがまたお願いします』

「わかってるよッ! あいつらは?」

『陽華と明夜はもう着いています。もう少しすれば結界も展開されるでしょう。守護者も今向かっています』

 ソレイユの声が響き、影人に今の状況を教えてくれる。相変わらず、あの2人は素早いことだ。影人がそんなことを思ったとき、急にソレイユの声が震えた。

『ッ!? 待ってください! これは・・・・・この気配は!?』

「? 何だ、どうしたソレイユ?」

 その尋常ならざる雰囲気に、影人はつい走るのをやめてソレイユに語りかけた。

『影人!! 緊急事態です! 東京都心にレイゼロールが出現しました!』

「な!?」

 ソレイユの言葉に影人は目を見開く。だが、影人はその驚きに浸っている暇はなかった。

『影人、あなたは引き続き2人の元へ向かってください! 私はレイゼロールに対応すべく、他の光導姫に連絡し、ラルバに守護者を要請します!』

 ソレイユはそう言い残すと、何も話さなくなった。きっと、レイゼロールの対応に移ったのだろう。影人は何が起こっているのか、また何が起ころうとしているのかもわからず、ソレイユの言葉通り再び駆けだした。

(ったく、どうなってやがる!?)

 今までレイゼロールが現れたことはもちろんあった。しかし、その場合はレイゼロールが闇奴を生成した場合のみだった。闇奴を生み出した瞬間にレイゼロールは出現していたが、それ以外はレイゼロールが現れたということは、自分は聞いた事がない。

 しかも今回はレイゼロールと同時に闇奴が出現し、レイゼロールは離れた場所にいる。影人が陽華と明夜を影から見守って、まだ1ヶ月ほどだが今回のようなケースは初めてだ。

(ソレイユがあんなに焦ってたことは、かなりまずい事態ってことか?)

 全力で駆けながら影人は思考を巡らせる。ああ、制服が鬱陶しい。息を上げながらもソレイユの合図で示された場所を目指し、影人はただただ走る。

「はぁはぁ・・・・・・おえっ」

 走っている間、周囲に人はいなかったからもう2人は戦っているのだろう。ようやく目的地についた影人はなんとか呼吸を整えようとした。

「・・・・・・神社か」

 息を整えた影人は目的地を確認した。真っ赤な鳥居が階段の上に見えた。日が落ちようとしている中、影人は慎重に階段を上っていく。

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 裂帛れっぱくの気合いを伴った声が影人の鼓膜を揺らす。影人は階段を上り、すぐ横の林に身を隠した。

「陽華! 香乃宮くん! 離れてッ!」

 林から神社の様子を窺うと、3人は巨大な蛙型の闇奴と戦っていた。今は明夜がやしろの前に鎮座している蛙型の闇奴に攻撃を仕掛けたところである。

 明夜は杖を振るい、水の蛇を創造し闇奴に向かわせた。どうやら陽華と光司によって、かなりダメージを与えられていたようで、まともに動けずにその攻撃を受けた。

「ゲコッ!?」

 水の蛇はそのまま闇奴の前身を嘗めるように這い、闇奴の体に巻き付いていく。蛙型の闇奴は水の蛇によって全身の自由を奪われる。

「陽華!」

「うん、明夜!」

 2人はうなずき合うと、お互いの手を前方に突き出す。光司は2人を守るように、すぐ近くで剣を構えている。

(・・・・・まじで俺いらないな)

 2人が詠唱しているのを林から聞いていた影人は、数日前も思っていた気持ちを抱いた。まあ、光司という優秀な守護者がいるのだから当たり前だろう。

 別に卑屈になっているわけではない。ただ、本当に自分がいるか再び疑問に思っただけだ。なにせ、できれば自分はこんな仕事はさっさと辞めたいのだから。

「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」

 そうこう考えている内に、陽華と明夜の浄化の光が闇奴に向かって放たれた。明夜の水の蛇によって体の自由を奪われていた闇奴は、そのまま浄化の光を受けた。

「ゲコォォォォォォォォォ!?」

 果たして蛙型の闇奴は、そのような奇妙な断末魔を上げ、浄化され元の人間に戻った。光司が闇奴化していた女性を賽銭箱の隣に座らせた。闇奴化していた人間はしばらくは気を失ったままだが、もう少しすれば意識を取り戻すだろう。

「一件落着だな・・・・・」

 影人がそう呟いて帰ろうとした瞬間、どこからかパチパチと拍手の音が聞こえた。

「あ・・・・・?」

 夕刻の神社に響く場違いなその音に、影人が疑問を抱いていると、拍手をしながらその人物は現れた。

「いやいやお見事です。素晴らしい連携ぶりですね」

 社の影から現れた、どこか執事然とした男は穏やか口調で賞賛の言葉を口にする。陽華と明夜が不思議と不審の織り混じったような顔で、その男を見る中、光司だけが目を見開き顔をこわばらせた。

「・・・・・・・・嘘、だろ。まさか・・・・・・・!」

「あの人を知ってるの? 香乃宮くん?」

 陽華が光司の反応から質問を投げかける。目の前に現れた男は変わらず穏やかな雰囲気を醸し出したままだ。

 光司は仕舞っていた剣を構え直し、最大限の警戒と共に陽華と明夜にこう告げた。

「2人ともッ、今すぐ逃げろ! 僕が時間を稼ぐ!!」

「こ、香乃宮くん・・・・・?」

 光司のただならぬ様子に明夜が驚きの声を上げる。だが、当の光司は余裕がなさそうに、2人に言葉を投げかけ続ける。

「速くっ! あいつが攻撃してくる前にできるだけ遠くに逃げろッ!」

 いつもと違って語気が荒くなった光司に明夜は声を震わせる。

「な、何なの!? あの人は一体何者なの、香乃宮くん!?」

 執事然とした男を睨みながら光司はその男が何者なのかを告げた。

「奴は、闇奴が知性を得た存在――闇人あんじんだ!」

 光司の言葉に反応したのだろう。目の前の男は右手を自分の胸に当て、ニッコリと笑ってこう言った。

「はい、その通りでございます。私はしがない闇人が1人――名をフェリートと申します」

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