第2088話 ヤンデレ幽霊の帰還(4)
「あなたの懸念は尤もです。あなたも言ったように、零無の存在が許されていたのはあくまで無力な存在だからです。それはもちろん、零無自身も理解している事でした。だから、私は零無から『空』の力を全て返却してもらい、十全なる『空』の力で零無が得た力を制限、または消滅させようとした。しかし・・・・・・」
シトュウはそこで一旦言葉を区切ると、難しい顔になった。
「零無の得た力は制限する事も消滅させる事も出来ませんでした」
「『無』の力をどうこうするなど土台無理な話だよ。無を縛る事も消滅させる事も出来はしない。無とはそういうものだ。しかも、いま吾に宿っている『無』の力は『空』の力由来のものではない。純粋な無だ。だから、余計にね。それでも、もしかすれば、十全なる『空』の力ならばその『無』の力をどうにか出来るかと思ったが・・・・・・結果は今シトュウが言った通りだよ」
シトュウの言葉に零無がそうコメントする。影人は「マジかよ・・・・・・」と思わず天を仰いだ。
「・・・・・・おい零無。お前、自分からその力を放棄出来ないのか?」
「出来たらとっくにやっているよ。吾だって自分の立場は理解している。ただの無力な幽霊である方が色々と楽だからね。でも、『無』の力は吾と親和性が高すぎる。無理やりこの力を引き剥がす事は極めて難しいんだよ」
「厄介極まりねえな・・・・・・」
零無の答えを聞いた影人は辟易とした様子でそう言葉を漏らした。そんな影人にシトュウはこう言葉をかける。
「『無』の力を持つ零無には一切の拘束は意味を持ちません。結局、今の状態のままとする他はない・・・・・・それが私を含めた真界の神々の結論です。ですが、監視役は必要です。そういうわけで、帰城影人。零無の監視を頼みます。ですが、監視と言っても、特にやる事はありません。今まで通りで大丈夫です」
「えー・・・・・・事情が変わったから真界で監視するとかはないのか?」
「零無は真界出禁です。私を含めた他の真界の神たちも『絶対に嫌だ』、『あんなおかしな神と同じ世界にいたくない』、『何だかんだ帰城影人に押し付けるのが1番安全』という意見ですから。そういうわけで、あなたに任せます」
「それただの厄介事の押し付けじゃねえか!」
思わず影人がそうツッコミを入れる。影人は取り敢えず、まだ見ぬ真界の神々どもを恨んだ。もし会う事があれば、絶対に1発殴ってやる。
「なあなあ影人。せっかく夫婦がまた一緒になったのだから、今日は存分にイチャイチャしような。いや、今日とは言わず永遠に。ああ、でもまたこうしてお前に触れられるなんてなぁ。やはり、好きな人に触れる事が出来るのはいい事だ。ふふっ、ふふふっ」
「もうマジで最悪だ・・・・・・」
ラブラブオーラ全開で愛の言葉を囁いて来る零無。反対に、影人は絶望した言葉を漏らした。
「というわけで、その第一歩としてデートをしよう。どこに行こうか影人?」
「行かねえよ。そもそも、今は正月だ。俺は初詣した帰りなんだよ。家に帰ってゆっくりする」
影人は即座に零無の提案を却下した。影人の言葉を聞いた零無は驚いた顔を浮かべた。
「正月? もう年が明けているというのかい? 嘘だろ・・・・・・つまり、吾がお前と別れてから既に半年以上経っているというのか!? そんな! 吾とそんなに離れてさぞ寂しかっただろう影人! ああ、可哀想に!」
「いや、めちゃくちゃ快適だったぞ」
「だが、神社への参拝はいただけないな! そこらの低級の神への信心など無駄だ! 吾がいるだろう吾が! お前が他の神へ祈りを捧げるなど許せん! その社を無くしてやる!」
「やめろバカヤンデレ! おいシトュウさん! やっぱりこいつに力があるのダメだって!」
悲しんだかと思えば急に怒った零無は影人から離れると立ち上がった。明らかに神社へ行く気である。今度は逆に影人が零無に抱き付き、零無を止めた。
「・・・・・・とにかくそういう事です。後は頼みましたよ帰城影人」
シトュウは影人の訴えを無視すると、真界への門を開きその中へと消えて行った。
「おいシトュウさん!? くそっ、見捨てやがった!」
「離せ影人! 吾はお前を誑かした社を無に還さねばならん!」
「社が俺を誑かすってなんだよ! ああ、もう勘弁してくれーー!」
影人の悲鳴が青空へと吸い込まれていく。影人はしばらくの間、神社に向かおうとする零無を止め続けたのだった。
――こうして、約半年の期間を経て、影人の側に零無が帰ってきたのだった。




