第2087話 ヤンデレ幽霊の帰還(3)
「吾が飛ばされた場所は一言で言えば、『虚無の闇辺』と同じような場所だよ。世界と世界の狭間、その深層にある空間・・・・・・『虚無の闇辺』は世界から消えた全ての存在が辿り着く場所だが、吾が飛ばされた場所はそれよりも深い場所だった。ただただ静謐な真の暗闇。そこにあったのはそれだけだ」
「・・・・・・それがお前が実体を得た話とどう繋がるんだ?」
影人が核心に迫る質問を投げかける。零無は至近距離から、その透明の瞳で影人の顔を見つめた。
「ふふっ、そう急くなよ。今からそれを話すところさ。吾が飛ばされた場所は、『虚無の闇辺』と同じように虚無の力が満ちていた。だが、その虚無は全てを無に還すような性質ではなかったんだ。ただそこにあるだけの『無』とでも言えばいいかな。より純度の高い『無』の力は、徒に全てを無に還すわけではないという事だね」
「? お、おう・・・・・・」
正直、零無が何を言っているのか影人にはよく分からなかったが、突っ込んでも長くなるだけだと思った影人は、取り敢えず分かった風に頷いた。
「『無』の力と親和性がある吾にとって、その場所は居心地がよかった。吾はしばらくの間そこにいた。時間の概念がなかったから、実際にどれだけいたかは分からないがね。その結果、というべきかな。吾の中に力が宿った。純粋なる『無』の力が。この『無』の力は『空』の力を必要としない。今の吾はその純粋なる『無』の力で、肉体がないという事実を無くしたのさ。肉体がない事実が無いという事は、裏返って肉体があるという事だ。とまあ、吾が肉体を得た経緯はそんな感じだね」
零無が説明を終える。説明を聞き終えた影人はしばらくの間、零無の話を消化した。
「・・・・・・つまり、何やかんやあって『空』の力とは違う力を手に入れたってわけか。で、その力で肉体を得たと」
「うん。平たく言えばそういう事だよ。もちろん、『無』の力はそれ以外にも応用が効く。そして、吾ほど上手く『無』の力を扱える者もいない。いやあ、いい拾い物をしたよ」
零無が機嫌が良さそうに頷く。状況を理解した影人は軽く頭を抱え、シトュウにこう聞いた。
「・・・・・・シトュウさん。2つほど質問だ。まず1つ目だが、結局、境界は安定したのか?」
「一応、修復作業は終わりましたが、完全に安定したとは言えませんね。やはり、あと数年は流入者の問題があるでしょう。しかし、それ以外の問題は起こらないと考えます」
「そうなのか・・・・・・じゃあ2つ目。この状態の零無を野放しにしておいていいのか? 零無の存在が許されてたのは、あくまで何も出来ない無力な存在っていう理由が大きいと思うんだが。・・・・・・少なくとも、こいつに裁きを下した俺は結構というか、かなりヤバい状況だと思ってるんだけどよ」
影人は前髪の下の目を自分の腕に引っ付いている零無に向けた。今は満面の笑みを浮かべ、借りて来た猫のようにおとなしいが、零無がいつまた厄介事を起こすか分からない。影人の懸念にシトュウは小さく頷いた。




