第2086話 ヤンデレ幽霊の帰還(2)
「ふむ。ここでいいでしょう」
約10分後。影人たちは小さな広場にいた。そして、その広場にベンチを見つけたシトュウはそう言うと、ベンチに腰を下ろした。影人と零無もシトュウに続きベンチに座った。並びはシトュウ、影人、零無という順だった。
「はあ〜、影人、影人・・・・・・好き。大好き♡」
「だからくっつくな! 鬱陶しいんだよ! マジで離れろって!」
コアラのように影人の左腕に抱きついて来る零無に、影人が抗議の声を上げる。零無はここに来る道中もずっと抱きついて来た。そのため、無駄に注目を集めてしまった。肉体を得ているという事は一般人も零無の姿を確認できるという事だ。零無の容姿は主にその凄絶なまでの美しさが原因で人目を引く。しかも、そんな尋常ならざる美女が抱きついている相手が、前髪に顔の上半分を支配されている見た目ザ・陰キャなのだから、余計に目立つというものだ。
「・・・・・・これがかつての『空』だというのだから嘆かわしいですね」
シトュウは零無をこれ呼ばわりしながら呆れた様子でそう呟いた。普通なら、零無はシトュウのこれ呼ばわりに怒りを露わにするだろう。零無は影人以外には基本、天上天下唯我独尊的だ。当然、シトュウも例外ではない。しかし、今の零無は久しぶりの影人を堪能すること以外頭にないようで、シトュウの言葉には特に反応しなかった。
「くそっ、こいつマジで全然離れねえ・・・・・・何か力でも使ってんのか・・・・・・? はあー・・・・・・おい、零無。もうしばらくそのままでいいから、さっさと話をしろ。奇跡の物語ってのは何だ」
影人は無理やり零無を引き剥がそうとしたが、零無は凄まじい力で影人に抱きつき、影人から離れなかった。零無を引っぺがす事を諦めた影人は、死んだ顔で零無にそう促した。
「うん。いいよ。そうだな、どこから話そうか・・・・・・」
零無は蕩けるような声でそう言うと、話を始めた。
「吾は一刻も早くお前の元に戻るべく、直接境界に行き修復作業を行っていたんだ。『空の間』から修復作業をするのと、直接境界で修復作業をするのとでは作業効率が違うからね」
「ああ、それはいつかシトュウさんから聞いた」
「む、そうか。それはつまり、吾が境界に行って頑張っている間にシトュウと話をした、もといイチャついていたというわけだな。ふーん、そうかそうか。それは許せない。許せないなぁ・・・・・・」
「今の言葉をどう聞けばそんな解釈になるんだよ・・・・・・いいから話を続けろ」
急にヤンデレの気配を発した零無に、影人は少しの恐怖心と面倒くささを感じた。影人にそう言われた零無は「分かったよ。でも、後で詳しく聞かせてくれよ」と少し不満そうな顔を浮かべた。
「吾が境界でずっと修復作業をしていると、ある時境界に大きな乱れのようなものが発生した。まあ、崩壊していないといっても境界は不安定だからね。薄い接着剤で割れた破片をくっつけているような状態だった。つまり、いつ何が起きてもおかしくはないんだよ。吾はその乱れを治めようとした。しかし、この乱れが思っていたよりも強くてね。吾でもギリギリ治める事は出来なかったんだ。結果、吾はその乱れに巻き込まれ、異なる場所へと飛ばされてしまった」
「異なる場所・・・・・・? というか、『空』の力を持ってたお前でもどうにか出来なかった境界の乱れって何なんだよ・・・・・・」
「境界で起こる乱れは、いわば世界の流れの乱れですからね。境界は異なる世界を隔てる場所であり、世界と世界の流れや情報がぶつかり合う場です。本来ならば境界がそのフィルターの役目を果たすのですが、彼の忌神のせいで境界は不安定になりましたからね。巨大な乱れが吹き荒れたのでしょう。そして、その乱れは『空』の半分の力があっても治める事は難しいのです」
影人の呟きを聞いたシトュウがそう説明した。ちなみに零無は乱れを治める事は出来なかったが、それでも勢いはかなり削いだらしい。そのため、この世界とあちら側の世界に大した影響はなかったとシトュウは補足した。




