第2085話 ヤンデレ幽霊の帰還(1)
「――影人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
年が明けた1月2日の昼過ぎ。影人が近くの寂れた神社に初詣に行った帰り道で、突然そんな声と共に女性が影人に突撃してきた。影人は避ける事が出来ず、その女性に抱きつかれた。
「うおっ!? なっ、零無!?」
「影人、影人、影人、影人、影人! 会いたかった! 会いたかったよ!」
影人に抱きついて来た女性は零無だった。零無は感無量といった様子で、影人を強く強く抱きしめた。
「ああ、お前だ。お前の匂いだ。お前の体温だ。温かい。ずっとずっとこうしていたいな。はあ、影人・・・・・・」
影人の首筋に零無の生温かい息が掛かる。影人はゾッと鳥肌が立った。
「気色悪い吐息を漏らすな! 離れろ! というか、お前帰って来たのかよ・・・・・・! あと、なんでお前当然のように俺に触れてるんだよ!? お前、力を全部シトュウさんに返してないのか!?」
影人は無理やり零無を引き剥がした。そして、零無にそう疑問をぶつける。影人が零無と決着をつけて以来、零無はずっと幽霊としてこの世界に存在していた。無力な存在としてこの世界に存在する。それが、影人が零無に下した罰だった。
だが、フェルフィズが影人たちが住むこの世界と、この世界に隣接するあちら側の世界の境界を壊した。シトュウは境界の崩壊を止めるため、一時的に零無に『空』の力の半分を譲渡した。
フェルフィズとの最終決戦の結果、境界の崩壊は防がれた。しかし、あくまで崩壊が防がれただけだ。境界は不安定なままだった。零無はその境界を安定させるために、しばらくの間この地上世界から消えていたのだ。その零無が帰って来たという事は、境界が最低限安定したという事だろう。
だがその場合、零無が肉体を得たままこの世界にいるという事は――それはまだ零無が『空』の力を持ったままである事を示している――おかしいのだ。零無は今でこそ危険度は多少低くなったが、危険な者である事に変わりはない。シトュウが零無に力を預けたまま地上に帰すのはあり得ない、とまでは言わないが極めて可能性が低い。影人は自然と緊張していた。
「――いいえ、確かに零無に譲渡していた『空』の力は全て返してもらいましたよ」
すると、影人の後方からそんな声が響いて来た。
「っ、シトュウさん・・・・・・」
影人が振り返ると、そこにはシトュウがいた。シトュウは紫色の着物のような服を着ており、両の透明の瞳を影人に向けていた。
「何だお前も来たのかシトュウ。せっかくの吾と影人の感動の再会に水を差しやがって・・・・・・」
「興奮したあなたが何をするか分かりませんからね。目付けの役は必要でしょう」
ギロリと零無はシトュウを睨んだ。シトュウは平然とした様子で零無にそう言葉を返す。
「シトュウさん、今の言葉は本当か? 零無の『空』の力は返却済みっていう・・・・・・じゃあ、何で零無に実体があるんだ?」
「それは・・・・・・」
影人の疑問を受けたシトュウが視線を零無に向ける。零無はドヤ顔で胸を張った。
「ふふん、もちろんお前には教えてあげるとも影人。吾の想いが起こした奇跡の物語をな」
「奇跡の物語・・・・・・?」
「・・・・・・場所を変えましょう。路上で話すには多少長い話になるでしょうから」
「あ、ああ」
首を傾げた影人にシトュウはそう提案して来た。影人は取り敢えずシトュウの言葉に頷いた。影人たちはその場から移動した。




