第2080話 クリスマス前髪争奪戦7(2)
(っ、嘘だろ。こいつまさか・・・・・・俺たちの世界に入門して来たって言うのか!? っ、間違いない。集中したら感じる。感じるぜ。俺、A、B、C、D、E、Fしか繋がっていなかった世界に新たな反応が・・・・・・さながらH。幻の8人目の反応が。これが、これが香乃宮だと・・・・・・!?)
影人は愚者の魂を高めると、自分たち――風洛7バカ――の世界に光司の存在を知覚した。まさか、まさかだ。あの香乃宮光司が影人たちの世界に入門してくるとは。
しかし、それが事実だ。そして、光司が影人の居場所を分かった理由も、影人の変装を見破った理由も納得できた。魂で繋がっている魂の友ならば、それくらいの事わけなく出来る。今の光司はそういう存在だ。
「でも、この光は今日1日だけの力みたいなんだ。何となく分かるんだけど、これは聖夜の奇跡なんだよ。聖夜が終われば奇跡も終わる。だから、この光が力を貸してくれるのは今日限りなんだ」
「そ、そうか・・・・・・」
続く光司の言葉を聞いた影人は、内心でホッと安堵の息を吐いた。よかった。取り敢えず今日1日だけならまだ何とかなる。光司に常に居場所を捕捉されているなどといった状況、考えるだけで耐えられない。
「という事で、今日1日だけど帰城くんは僕からは逃げられないよ。ああ、言うのが遅れてしまったけど、女性の姿も素敵だね。松野さんが声を掛けるのも仕方がない」
「・・・・・・脅しとキショい事を同時に言ってくるな。ちっ、変装が無駄ならもう解いてやるよ」
影人は周囲に人の姿がない事を確認すると、変装を解いた。
「やっぱりスプリガンに変身していたんだね」
「・・・・・・通常の俺じゃ逃げられない相手が多すぎるんでな。じゃあな。2度と追って来るなよ」
影人は光司にそう言うと透明化の力を使用し、姿を消した。そして、そのまま風のような速度でボーリング場を出た。
「・・・・・・残念。また逃げられてしまったね。それに、さっきの影人くんの言葉・・・・・・どうやら、僕以外にも彼を追っている人がいるみたいだね」
光司は困ったように笑った。影人は2度と追って来るなと言った。しかし、光司はここで影人を諦める気は毛頭なかった。
「やっぱり、君は人気者だ。人気者を独占するのは良からぬ行為。でも・・・・・・今日の僕は良からぬ者。聖夜が起こした奇跡と共に君を追うよ」
光司はそう呟くと自身の中にある光に従い、影人を追い始めた。
――聖夜の奇跡に祝福された、前髪専門の真なる最強のチェイサー、香乃宮光司。聖夜に呪われた空前絶後の前髪野郎、帰城影人。両者の逃走劇が始まった。
「・・・・・・ああは言ったが、香乃宮の奴は絶対に追って来るだろうな」
透明化の力を使いボーリング場の外に出た影人は、辟易とした顔を浮かべていた。光司は基本的に常識人だ。しかし、なぜか影人に限って言えば、少しタガが外れる困った子ちゃんになるのだ。本当にやめてほしい。
「しかも、今日の香乃宮は俺たちの世界に入門してやがるからな・・・・・・マジで地の果てまで追って来やがる。クソッ、何でよりによってあいつが・・・・・・マジで恨むぜ神様」
光司への恐怖と面倒くささを感じながら、影人は恨み言を口にする。影人にとって、悲しい事に神は身近な存在だ。何なら、今も2人の女神に追われている。つまり、神への恨み言は知り合いへの愚痴になってしまうのだが、影人がいま口にした神という存在は知り合いに向けたものではない。言わば、一種運命に対する愚痴のようなものだった。




