第2076話 クリスマス前髪争奪戦6(2)
「僕の・・・・・・妹です。実はパイが食べたいとせがまれて」
変装している自分とイヴの歳の差を考えて、影人はイヴを光司にそう紹介した。しかし、影人の紹介が気に入らなかったのか、不機嫌な顔でこう口を挟んできた。
「おい、ふざけんな。誰が妹だ。気色悪い嘘をつくな」
「ちょ、おま・・・・・・!? 空気読めよ・・・・・・!」
イヴの想定外の言葉に影人が焦る。影人はイヴの方に向き直りヒソヒソ声で、ここは合わせるように促したがイヴは「けっ」とそっぽを向き、残りのチョコパイを口に放り込んだ。
「あの、ええと・・・・・・」
光司が何とも微妙な顔で影人を見つめてくる。それはそうだ。妹と紹介した相手が妹じゃないと言っているのだから。場合によっては、いや高確率で何か犯罪を疑われるだろう。実際、影人は周囲の客から不審な目線が向けられているのを感じた。
「い、いやこれはですね! 実はちょうど反抗期なんですようちの妹! だからこんな態度で・・・・・・! いや、本当すみません!」
このままではマズいと察した影人は必死に取り繕った。イヴは「あ? ふざけ――」と再び否定しようとしたが、その前に影人がイヴの口を塞ぐ。イヴは「むぐっ!?」と驚いた顔になった。
「あ、そうなんですか。難しいお年頃ですね。いえ、お気になさらないでください」
光司は影人の説明に納得した。周囲の客たちも納得したのか、影人から視線を外す。影人はよかったと胸を撫で下ろした。
「はぐっ、んぐっんぐっ・・・・・・! じゃ、じゃあ僕たちはこれで失礼しますね。さようなら」
このままここに居続けれるのはマズい。そう思った影人は残っていたパイを一気に口に放り込んで飲み込むと席を立った。そして、隣のイヴの手を握った。
「行くぞイヴ・・・・・・!」
「あ!? おい手を離せよ! 気持ち悪りぃ!」
イヴは思い切り嫌がったが影人は手を離さなかった。そして、空いているもう片方の手でゴミを乗せたトレーを持つと急いでその場から去ろうとした。
「ああ、影野さん。最後に1つだけ。実は、僕は今日という日をある人と過ごしたいと思っていたんです。ですが、残念ながらその人は待ち合わせの場所には来ませんでした」
「っ!?」
しかし、光司は突然そんな話を始めた。光司の話を聞いた影人の心臓がドキリと跳ねる。影人は思わず立ち止まってしまった。
「・・・・・・そ、そうですか。それは残念でしたね」
「いえ。きっと、彼には他の予定があったんだと思います。彼は人気者ですから。だから、僕は全く彼を恨んではいません」
影人はほんの少しだけ震えた声でそう言葉を返した。光司は優雅に首を横に振ると、コーヒーに口をつけた。
「でも・・・・・・例えば、もし彼が誰とも今日を過ごしていないのなら、僕は醜い感情を我慢できないかもしれません。無理やりにでも彼を誘って今日という日を一緒に楽しみたい。友達と一緒にクリスマスを過ごすのはきっととても楽しいでしょうから」
「っ・・・・・・!?」
光司の言葉は影人にとってものすごく意味深に聞こえた。まさか、光司は自分が帰城影人だと気づいているのか。いや、あり得ない。守護者ではあるが、ただの人間の光司に影人の気配を察知する術はないし、変装を見破る術もない。論理的に考えて、光司が影人に気付けるはずはないのだ。
「ところで、実に不思議なんですが・・・・・・あなたからはその彼と同じ匂いがするんですよ。僕は別に特別鼻がいいというわけではないんですが、彼の匂いだけは覚えているんです。あなたと彼の姿形は全く違うのに・・・・・・本当に不思議ですね」
「〜っ!?」
影人は声にならない悲鳴を上げた。恐怖からゾワリと全身が震えた。影人はそのままイヴの手を引き逃げるようにその場から去った。




