第2074話 クリスマス前髪争奪戦5(5)
「・・・・・・確かにお前の言う通りだな。どういうわけか、影人の気配が肥大している。これでは逆に奴がどこにいるのか分からん」
「くっ、あの前髪。やらしい手を思いついて・・・・・・本当、無駄にしぶといんだから・・・・・・」
ソレイユがギリっと奥歯を噛む。これでは影人がどこにいるか分からず追う事が出来ない。正直、詰みの状況だ。レイゼロールがソレイユを下ろし、2人してどうするべきか悩んでいると、
「――ねえ、レイゼロール。少しいいかしら?」
2人の前に突然見覚えのある少女が現れた。シェルディアだ。レイゼロールの気配を辿り転移して来たシェルディアはソレイユの顔を見ると、少し意外そうな顔を浮かべた。
「あら、あなたもいたのソレイユ」
「シェルディア・・・・・・そういうあなたこそどうした・・・・・・んですか? すみませんが、いま私たちは影人の事で忙しいのですが・・・・・・」
口調を戻したソレイユは少し困ったような顔でシェルディアを見つめた。
「あら・・・・・・あなた達も? なるほど。あの子、あなた達とも約束をしていたのね。全く・・・・・・奇遇ね。実は、私も影人に用があるのよ。ねえ、少し話さない? きっと、お互い影人に対する用件は同じはずだから」
シェルディアは何かを察した様子で、レイゼロールとソレイユにそんな提案をしてきた。シェルディアの含みのある提案を聞いたレイゼロールとソレイユは互いに顔を見合わせた。
「・・・・・・いいだろう」
「・・・・・・ええ、分かりました」
そして、レイゼロールとソレイユはシェルディアに頷きを返した。
「・・・・・・これだけしても追って来ないって事は、誤魔化しが成功したって事だよな。ふぅ・・・・・・今日はよく危なくなる日だな」
数十分後。影人はファストフード店で一息ついていた。影人のトレーには、暖かなチョコのパイが2つ置かれていた。
「これもお前のおかげだ。ありがとうな、イヴ」
影人は隣に座っている少女――イヴに向かって感謝の言葉を述べた。
「けっ、せいぜい感謝しろ。後、俺は慈善でお前を助けたわけじゃない。その事を忘れるなよ」
スプリガンの力で擬人化したイヴは、影人に――影人はまだスプリガン状態で、今は幻影の力でどこにでもいそうな青年に姿を変えている――向かってギロリと奈落色の瞳を向ける。イヴの服装は黒のコートに紺のジーンズという、どこかスプリガンの服装に似た格好いい系だった。
「ああ、分かってる。パフェも奢ってやるし、デ◯ズニーランドにも連れて行ってやるよ。でも、お前がデ◯ズニーランドに行きたいとはな。くくっ、可愛いところあるじゃねえか」
「は? 何を勘違いしてやがるんだ。俺はあくまで経験がしたいだけだ。遊園地ってやつがどれだけくだらないのか、それを経験しに行くんだ。凄え楽しそうだからとかじゃないぞ。本当違うからな。マジで勘違いするんじゃねえぞ」
「はいはい」
念押しをするイヴの可愛らしいさに思わず笑みが溢れる。思わぬ出費だが、幸い年明けには金の当てがある。それに、娘と遊園地デートが出来ると考えれば楽しみでしかない。まあ、この事を言えばイヴは激怒するであろうから、口には出さないが。
「――すみません。お隣いいですか?」
影人がイヴと一緒にチョコパイを食べているとそんな声が掛けられた。今更だが、影人たちが座っているのはテーブル席ではなくカウンター席だった。
「ああ、どうぞ」
イヴがはむはむとチョコパイを美味しそうに食べている光景に気を取られていた影人は、特に深く考える事もなくそう返事をした。
「ありがとうございます。では、失礼して」
影人の承諾を受けた男――声から察するに――が影人の隣の席に腰を下ろす。そして、その男はこう言葉を続けた。
「今日は冷えますね。天気予報では、夜には雪が降るみたいですよ。まあ、聖夜にピッタリといえばピッタリですが」
「? はあ・・・・・・」
何だやけに絡んでくるな。正直、迷惑だなと思いながらも影人は相槌を返した。そして、影人は何とはなしにその男に顔を向けた。
「・・・・・・・・・・・・あ?」
影人は気付けばそんな声を漏らしていた。それほどまでに自分の隣に座った男の姿が信じられなかったからだ。なぜだ。どうして。意味が分からない。そんな思いが影人の中に一気に溢れ出す。影人はしばらくの間、固まっていた。
「ところで、ちょっとした興味から伺いますが・・・・・・あなたは聖夜をどう過ごされる予定ですか?」
そして、その男――香乃宮光司は爽やかな笑みを浮かべ、影人にそんな事を聞いて来たのだった。




