第2073話 クリスマス前髪争奪戦5(4)
(・・・・・・誤算だったぜ。まさか、念話の遮断と気配隠蔽の力を使ってもソレイユが俺を捕捉できるとはな)
透明化の力を使いソレイユとレイゼロールから逃亡した影人は最悪といった顔を浮かべた。まあ今の影人は透明なので、その顔が見える事はないのだが。
(しかも、レイゼロールと組んでるとはな。ソレイユがレーダーの役割、レイゼロールが足の役割ってとこなんだろうが・・・・・・見事に役割がハマってやがる。今のところ、俺はあいつらから完全には逃げきれない)
何か手を打たなければ。しかし、影人にはソレイユの探知を完全に振り切れる方法が分からなかった。
「・・・・・・イヴ。お前何かソレイユの探知を誤魔化せる方法思いつかないか?」
困った影人は相棒に助けを求めた。
『あ? 何で俺がわざわざそんな事を考えなきゃならねえんだよ。知るか。調子に乗るな。バカ前髪』
「そこを何とか頼む。何でも要望聞いてやるから。マジでヤバいんだよ・・・・・・!」
『・・・・・・その言葉、嘘じゃねえだろうな。嘘だったらマジで殺すぞ』
イヴは影人に釘を刺すとこう言葉を続けた。
『・・・・・・一応、1つだけ可能性のある方法はある。ただ、成功するかどうかは分からねえぞ』
「十分だ。可能性があるなら俺はそれに賭ける。教えてくれイヴ。その方法を!」
影人が心の底からの言葉を述べる。影人は本気だった。本気で逃げなければ自分の命はないと理解していた。
『・・・・・・仕方ねえな。まずは――』
そして、イヴは影人にその方法を教えた。
「――っ!? ま、待ってレール!」
レイゼロールと共に影人を追っていたソレイユは突然待ったの声を掛けた。ちなみに、ソレイユは地上では神力を使えないので、スプリガンである影人を追う事は物理的に不可能なため、レイゼロールに抱えられ(いわゆるお姫様抱っこ。レイゼロールは嫌がったが他に方法がなかったため仕方なく)ていた。
「? 何だ?」
レイゼロールはソレイユを抱えたまま立ち止まった。周囲には人の姿があったが、誰もレイゼロールとソレイユには注目していない。女神級の美女が同じく女神級の美女をお姫様抱っこしているのになぜ注目が集まらないかというと、それはレイゼロールが自身とソレイユに、目立たないように認識阻害の力を施しているからだった。そのため、周囲の者たちはレイゼロールとソレイユに気が向かないのだ。
「影人の気配が急に・・・・・・急に分からなくなった・・・・・・」
「・・・・・・なに? どういう事だ。お前は気配隠蔽の力を貫通して影人の気配が分かるのではなかったのか?」
「うん。そのはずなんだけど・・・・・・その、正確には影人の気配が大きくなりすぎて、正確な居場所が分からなくなったの。こんなこと初めてだわ・・・・・・」
「気配が大きく? どういう・・・・・・っ、これは・・・・・・」
レイゼロールも突然先ほどまでは感じ取れなかった影人の気配を察知した。しかし、ソレイユが言うように、影人の気配はいつもの何倍、いや何十倍にも膨張しているように思えた。
事実、影人は気配隠蔽の力を解除し、自身の気配を何倍にも拡張させる力を使用していた。その気配の膨張範囲は、少なくとも街1つ分ほどは大きいように思えた。しかも、気配は満遍に感じられ、特定の場所が濃い――つまり、中心地のような場所――といったような事も分からなかった。気配を隠すよりも、むしろ大きく解放し、正確な場所を分からなくする。これが、イヴの考えたソレイユの追跡を撒く方法だった。




