第2071話 クリスマス前髪争奪戦5(2)
「お口に合ったようなら何よりだよ。それにしても、何かシュールだったね。スプリガン姿の君がカツ丼を食べる姿は」
親子丼を食べ終えた響斬がそんな感想を漏らす。今の影人は帽子と外套を脇に置いた状態のため、特徴的なのは金の瞳くらいだが、そもそも響斬はスプリガンが帽子と外套を外した姿を初めて見た。
「まあ、そうだな。正直、スプリガンのイメージ的には、イメージ崩壊もいいところだ。でもまあ、ここには俺の正体を知る響斬さんしかいないしな。いいだろって感じだ」
「ははっ、多少は気を許してくれてるって事かな。よし、じゃあゲームの続きでもするかい? ちょうどいいところだったし」
「ああ、そうだな」
響斬の提案に頷いた影人は立ち上がり、帽子と外套を手に持った。先ほどまでとは違う穏やかな時間。影人が求めていたのはこんな時間だ。地獄から一転まさに天国。影人がそう思った瞬間、
「――ほう、随分と楽しそうだな」
背後から突然そんな声が響いた。
「っ!?」
影人がバッと背後に振り返る。聞くはずのない声。影人の耳を打ったのはそんな声だった。
影人の背後にいたのは先程まではいなかった女だった。長い白髪にアイスブルーの瞳。西洋風の喪服を纏ったその女性は口をへの字にして影人を睨みつけていた。
「影人ぉ・・・・・・」
そして、もう1人その女の横に影人を睨みつけている女がいた。桜色の長髪が特徴の女神のように美しい女だ。服装は白いセーターに薄赤のロングスカートといったものだった。どちらも、影人に向けて凄まじい殺気を放っていた。
「レ、レイゼロールにソレイユ・・・・・・お、お前ら何でここが・・・・・・」
2人の名前を呼んだ影人の顔がサッと青ざめた。スプリガン時の影人がここまで狼狽えるのも珍しい事だった。響斬も「え、レイゼロール様・・・・・・?」と驚きと狼狽の混じった顔を浮かべたていた。
「何で? 何でですって? それはあなたが逃げるからよ。私はずっと念話をしたのにあなたは応えないし・・・・・・だから、わざわざ追って来たのよ。いくら念話に応えないからって、スプリガンの気配隠蔽の力を使っているからって、あなたの中には私の力があるのよ。私にはそれが感じ取れる。あなたが私から逃げられるはずないでしょ!」
素の口調でソレイユは影人にそう言った。ソレイユの言葉を受けた影人はしまったといった顔になる。色々と対策はしてみたが、やはりソレイユとの繋がりを完全に誤魔化す事は出来なかったか。
「っ・・・・・・お前が俺のいる場所を捕捉できた理由は分かった。だが、何でレイゼロールと一緒なんだよ?」
影人はレイゼロールに視線を移した。レイゼロールは変わらずジッと影人を睨み続けている。地上で神力を使えないソレイユだけならどうとでもなるが、地上でも神力を自在に操れるレイゼロールと一緒となると話が別だ。影人は改めて現在の状況が相当にマズい事を理解した。
「何でってあなたを逃がさないために決まってるじゃない。あなたがスプリガンに変身して私から逃げてるのが分かったから、レールにコンタクトして応援を頼んだの」
「・・・・・・我もずっとお前の事は探していたからな。お前の気配が感じられないと思っていたが・・・・・・まさかスプリガンになってソレイユから逃げているとはな。どうりで気配が感じられないはずだ。・・・・・・影人、我はお前に言ったはずだ。今日は我と過ごせと。だが・・・・・・お前はソレイユとも同じ約束をしていたようだな」
レイゼロールのアイスブルーの瞳にスッと殺気が宿る。マズい。レイゼロールは激怒している。影人の本能が激しい警鐘を鳴らし始めた。




