第207話 謎の影と答え合わせ(5)
「・・・・・・・・・・とりあえずは、これで大丈夫だろ」
赤いドアに再び鎖を絡めつけ、影人は息を吐いた。
スプリガンの身体能力を生かし、全力でこの黒色の空間へと戻ってきた影人は、持っていた鎖とドアの周囲に落ちていた鎖を元のようにドアに絡ませた。これで、影人が再び触れない限りは、ドアが開くことはないだろう。
「ったく、いつまで泣いてんだよ。お前」
「・・・・・・・・・・別に泣いてねえよ」
とりあえずドアの事は片付いたので、影人は自分の近くで三角座りをしている悪意に言葉を投げかけた。そんな影人の言葉に、悪意は強がったように言葉を返した。
「言っただろ、入るなって。お前が俺の忠告を無視したから、そんな怖い思いをしたんだ。自業自得だな」
「うるせえよ・・・・・・・・普通はあのタイミングであんなこと言われたらブラフだと思うだろ」
「まあ、そりゃな。だが、嘘かどうか見抜けなかったのはお前のミスだ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
しばしの間、沈黙が流れた。影人がどう言葉を掛けるか考えていると、今度は悪意の方から影人に話しかけてきた。
「・・・・・・・・・あれは何だよ」
「さあな。実はあいつの詳しい正体は俺にも分からない。あいつは俺が過去に会った、人じゃない何か、その影だ。それ以外は何も知らねえよ」
「はあ? ・・・・・・・・・・あんな化け物を記憶の中に飼ってるってのに、どんだけ適当なんだよ」
「悪かったな、適当で。でもしゃあねえだろ。人生ってのは不思議な事が起こるもんさ。あれとの遭遇はその不思議な事だ。・・・・・・まあ、最悪の部類には入る出来事だったがな。とりあえず、この話はこれで終わりだ。さっきも言ったが、これ以上は何も話せん」
最後にそう付け加え、影人はこの話を締めくくった。影人もあまりあの影の事は話したくなかったし、情報もいま話した事以外は何も持っていない。
「・・・・・・・・分かったよ。じゃあ最後にこれだけは聞かせろ。何で俺を助けに来た? お前からしてみれば、助けに来る理由なんて何もなかったはずだろ。お前はあの化け物が怖くないのか?」
奈落色の瞳に疑問の色を浮かべながら、悪意はそんな事を影人に問うてきた。その質問に影人は頭をガリガリと掻きながら、ぶっきらぼうにこう答えた。
「怖くないって言えば嘘になる。だが、俺はまだあれには慣れてるんだよ。なんせ会ったことがあるからな。・・・・・・・・・で、お前を助けた理由は簡単だ。心が折れたであろうお前を、俺が好き放題にできるからだ」
「・・・・・・・・まあ、そうだよな」
「で、それが1つ目の理由。お前を助けた理由はもう1つある」
「もう1つ・・・・・?」
1つ目の理由は悪意が予想していた答えであったし、また納得もいったが、それ以外の理由は悪意には見当もつかなかった。
「俺は借りを返しただけだ。お前には2回助けられたからな。借りの作りっぱなしは、気分が悪い」
悪意がまさかの理由で目を見開いていると、影人は話を続けた。
「悪意――お前の正体は、スプリガンだ。いや、正確に言えば、スプリガンの力が意志を得た存在。それがお前だ」
「・・・・・・・・・・・・・ああ、そうさ。お前の言う通り、俺はスプリガンの闇の力、その化身。それがお前の言う『悪意』、つまり俺の正体だ」
影人のその言葉が正しいと証明するように、悪意は――いや、スプリガンの力の化身は影人の言葉を肯定した。




