第2065話 クリスマス前髪争奪戦3(4)
「影人ぉッ!」
そして、遂に暁理が行き止まりの場所に現れた。
しかし、
「あ、あれ・・・・・・?」
そこに影人の姿はなかった。
「嘘、いない・・・・・・? で、でもこの道に分岐はなかったし・・・・・・どこかに隠れた? いやでも隠れられる場所なんて・・・・・・」
暁理は首を傾げた。不思議だ。そう。例えるなら、まるでポットパイの中にスープが入っていないような気分だ。しかし、実際スープ、もとい影人の姿はない。
「ここじゃなくて他の所に逃げたのかな・・・・・・でも、角を曲がった時には影人の姿がなかったから、この道以外に逃げたとは考えられないんだよな・・・・・・もし、他の道に逃げたとしたら、他の道は全部見晴らしがよかったから、角を曲がった時に影人の姿が見えるはずだし・・・・・・うーん、ダメだ。論理的に考えても分からない。でも、取り敢えずここにはいないし・・・・・・他の所を探すか」
暁理は喉に魚の小骨が刺さったような違和感を抱きながらも、行き止まりの小道から去った。暁理が去ってしばらくすると、突然スゥとある男が現れた。その登場の仕方は、まるで今まで透明になっていた人物がその力を解除したように見えた。
「・・・・・・行ったか。やれやれだぜ」
現れたその男――スプリガンに変身した影人は安堵の息を吐いた。
(今日ほどスプリガンの力があってよかったと思った日はないな・・・・・・スプリガンの力がなかったら間違いなく詰んでたぜ・・・・・・)
影人はスプリガンに変身し透明化の力を使用し、暁理をやり過ごしたのだ。暁理もまさか影人が透明人間になって息を殺していたとは思うまい。
「しかし・・・・・・スプリガンに変身して逃げる手段をド忘れしてたなんて・・・・・・俺どんだけ焦ってたんだよ」
普段は冷静沈着なクールキャラなのに、何とも情けない話だ。前髪野郎の的外れでイカれた自己分析に体の震えが止まらない。
「あいつから逃げるためだけにスプリガンに変身したのは癪だが・・・・・・まあ世の中には仕方がない時もある。取り敢えず、まずはこの辺りから離れるか」
影人は壁を蹴り建物の屋上に登った。そして、クリスマスの街を見下ろす。バカと煙はなんとやらである。
「ったく、街はこんなに平和だっていうのに・・・・・・何で俺だけがこんな波乱のクリスマスを送らなくちゃならないんだよ・・・・・・」
聖夜は皆が祝福される日ではないのか。影人がそう言葉を漏らすと、
「――あら、それはあなたが逃げるからじゃないかしら」
背後からそんな声が聞こえてきた。
「っ!?」
影人がバッと振り返る。聞こえて来た声はいま最も影人が聞きたくなかった声だった。
先ほどまでは影人以外に誰もいなかった建物の屋上、影人よりも更に高い場所に1人の少女が佇んでいた。見覚えのあるブロンドのツインテールに豪奢なゴシック服。西洋人形のように精緻な美しさを誇るその少女は影人を見下ろしていた。
「ねえ、影人?」
「・・・・・・ここで君が来るかよ。嬢ちゃん」
影人の名を呼んだ少女――シェルディアに影人は緊張した顔でそう言葉を返す。聖夜に影人を追う次なる鬼は、最も危険度の高い鬼の内の1人だった。




