第2064話 クリスマス前髪争奪戦3(3)
「静かな場所、静かな場所・・・・・・さて、どこに――」
影人が小道の角を曲がる。小道の先は大通りほど賑やかではないが、まだ人通りの多い通りだった。影人は下げていた顔を上げ正面に目線を向けた。すると、視界内に見覚えのある顔が飛び込んできた。
「・・・・・・・・・・・・おい、嘘だろ」
その人物を見た影人は魂の消え入りそうな声でそう言葉を漏らした。影人は今見ている光景が現実かどうか疑った。
「・・・・・・ん?」
すると、向こうも影人に気がついたのか、影人に目線を合わせた。その人物は影人と同年代の女性だった。服装は薄緑の羽織物にスカート、足には黒いタイツを履いていた。
「「・・・・・・」」
影人とその女性は少しの間互いを見つめ合った。影人はフッと口元を緩め、穏やかな顔を浮かべた。女性も影人と同じように口元を緩める。次の瞬間、影人は回れ右をして全力で駆け出し、女性も全力で影人を追い始めた。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ! 俺の人生を設計した奴マジで絶対に許さねえーーー!」
「待てこら影人ぉぉぉぉぉぉぉ!」
影人は悲鳴を上げ、影人を追いかける女性――暁理は鬼の形相でそう叫んだ。街行く人々は「何だ痴話喧嘩か?」的な目を影人と暁理に向けていた。
「はあ、はあ・・・・・・ゲホッ、ゲホッ! ヤ、ヤバい・・・・・・た、体力が・・・・・・」
今日は何度も全力ダッシュをしているためだろう。もう体力が限界だった。影人はチラリと首を後方に向けた。暁理は変わらず鬼の形相で影人を追って来ている。あの様子だと、暁理はまだまだ体力がありそうだ。このままでは捕まるのも時間の問題だろう。
(危険度がかなり高い暁理に捕まるのだけはマズい! 何をされるかわかったもんじゃねえ! どっかに隠れてやり過ごさないと・・・・・・!)
影人は最後の力を振り絞り、走る速度を上げた。結果、一時的に暁理との距離が開く。影人が道角を曲がる。すると、影人の視界に細い道が飛び込んできた。この辺りの裏路地は探検不足で正直よく知らないが、暁理を撒くにはあそこに入るしかない。影人は細道に飛び込んだ。影人が細道を道なりに進む。しかし、
「なっ・・・・・・」
そこは行き止まりだった。しかも、隠れられるような場所も見当たらない。影人がその顔を絶望の色に染める。
「影人! こっちに逃げたな!? 絶対逃さないよ! 諦めて僕とデートしろ!」
そうこうしている内に暁理の声が聞こえ、足音が近付いて来た。暁理がここに来るのも時間の問題だ。
(どうするどうする帰城影人!? どうすればこの危機を乗り越えられる!?)
影人は本気で思考した。スプリガンの時に危機に陥った時と同じように。何か、何かあるはずだ。ここからでも助かる方法が。諦めるな。不可能な事なんてない。それは、過去の自分が証明して来た事だ。
「過去の自分・・・・・・そうか!」
影人は自分のズボンのポケットに目を向けた。そして、そこに入っている物を取り出した。




